共働き家庭の増加とともに、夫よりも妻の年収が高いケースも出てきています。そんなカップルが出産後、妻の働く会社に子どもの健康保険を届け出ようとしたら、会社の担当者から手続きを拒否されたという投稿が読売新聞の掲示板サイト「発言小町」に寄せられました。共働き家庭で子どもが生まれたとき、健康保険はどっちにつけるのがいいのでしょうか。制度に詳しい社会保険労務士の大須賀信敬さんに聞きました。
「子供の扶養を拒否された」と題して投稿してきたのは、トピ主「産休中」さん。最近、初めてのお子さんを出産した女性です。年収は明らかにしていませんが、夫よりも自分の方が年収が高いので、子どもの健康保険は妻側の扶養にしようと夫婦で合意。会社の窓口に申し込んだところ、数日たって、会社から「上層部に相談しましたが、育休中は無給となりますので、お子さんは夫側の扶養とするのが妥当という結論でした」と連絡がありました。
「育休を延長されることもありますよね」
復職すれば、妻の方が継続して収入が高くなるので、ぜひ妻側の扶養としたいと話しましたが、その担当者は「育休を延長されることもありますよね」「2番目のお子さんができたら、再度育休を取得する可能性もありますよね」と言って譲りません。「夫さんの側で、お子さんの扶養を行うことができるかどうか確認したい」と夫の職場の連絡先まで聞かれたそうです。
「妻側の年収が高い場合、子どもの扶養はどちらで行うのが正しいのでしょうか? また、もし妻側の扶養が妥当な場合、育休を理由に扶養を拒否する上記のような対応はハラスメントに当たりますか? 子どもの1か月健診に保険証が間に合うかヒヤヒヤです。産後まだ日も浅く、心身共に疲れ果てました。皆さんのお知恵をお貸しください」と発言小町に問いかけました。
このトピには、約10件の反響(レス)がありました。
「会社ではなく保険者の問題」と書いてきたのは、「担当者」さん。「健康保険組合とか、協会けんぽとか、国保組合とか、健康保険証を発行する組織(保険者)の窓口が、あなたのお子さんの扶養実態を確認したがっているのだと思います。会社はただの伝書バト状態かと。保険者はそのお子さんを扶養として受け入れると、その子が病院にかかるたびに医療費を病院へ支払うわけですから、本当に自分のところで扶養にしていいのか、今ある情報だけでは上席の審査が通らないのだと思います」と推測します。
ほかにも、「昨年ルール改正がありました」(「ぴょんた」さん)、「社会保険だけでなくトータルで考えた方が良いですよ」(「四槓子」さん)などのコメントが寄せられています。
この問題について、中小企業診断士・社会保険労務士で、組織・人事コンサルティング会社「コンサルティングハウス プライオ」(本社・千葉県市川市)を経営する大須賀信敬さんに聞きました。大須賀さんは、さまざまな企業の人事・労務管理などの相談に乗っています。
基準を明確にしたルール改定
「ちょっと言いにくいですが、この投稿のケースでは、会社の窓口の方、人事や労務担当者が勉強不足だと思いますね」と大須賀さん。
大須賀さんによると、共働きをする夫婦が2人とも健康保険の被保険者であった場合、養育する子どもを夫と妻のどちらの健康保険の被扶養者にするかについては、2021年4月30日に厚労省から「夫婦共同扶養の場合における被扶養者の認定について」という文書が出され、従来より基準が明確になりました。
それまでの基準では、夫婦の年収がほぼ同じ場合、どちらの保険者の被扶養者とするか、決定しづらい面があって、子どもが被扶養者と認定されなかった場合の取り扱いも、十分に整備されているとはいえなかったためです。
具体的には、
「年間収入が多いほうの親の年収額」に対する「夫婦の年間収入の差額」の割合が、
・1割超 :年間収入の多い方
・1割以内:主として生計を維持する方
の扶養になる、と定められました。
夫婦の年間収入の差が小さいとき、図1のように、どちらの被扶養者となるかが決まってきます。
そして、この場合の年間収入とは「今後1年間の見込み収入」で、図2のように、過去、現時点、将来の収入を勘案して、夫婦で比較することになります。
「妻が続けて1年間の育児休業をとった場合、夫と比較して、この見込み収入は減ってしまうこともあるので、会社の担当者が言っていることもある程度妥当かとは思います。ただ、保険者が被扶養者と認めないという決定をした場合には、次のように定められた手順に従って、保険者を決めることになっています」と大須賀さんは指摘します。
不認定だった場合の手続きは?
<厚労省の通知内容から抜粋>
<1> 扶養を不認定とした保険者は、不認定の理由や被保険者の標準報酬月額、決定した日付などを記載した「不認定の通知」を発行する。
<2> もう一方の配偶者の被扶養者にするための届出は、<1>の「不認定の通知」を添付して別の保険者に対し行う。
<3> <2>の届出を受けた保険者が<1>の「不認定の通知」に疑義を持った場合には 、5日以内に保険者間で協議を 行う。
<4> <3>の協議がまとまらなかった場合には、最初に扶養の届出が行われた月の標準報酬月額が高いほうの被扶養者とする。
<5> 夫婦の標準報酬月額が全く同額の場合は、届出により「主として生計を維持する者」の被扶養者とする。
<6> <5>の決定に異議がある場合には、地方厚生局に申し立てて斡旋を受ける。
「生まれた子供をどちらの健康保険の被扶養者と認めるかどうかは、健康保険組合など保険者が決めるべきことで、会社ではありません。国がここまで細かく手順を決めて公表し、空白が出ないように配慮しているんです。でも、今回の投稿のように、会社で門前払いをされてしまうと、この手順すら動かなくなるということなのですね」と大須賀さんは強調します。
手っ取り早いのは、健康保険組合など自分と夫それぞれの保険者の窓口に相談して、まずは正しい知識を得ることだそうです。そのうえで、「保険者に確認したら、被扶養者認定の対象だと説明されました。調べていただけますか」と言えば、会社側も動かざるを得なくなる可能性が高いと言います。
トピ主さんは、追加のレスで、「社労士さんに相談し、ひとまずは、夫側も今後、育休をとる可能性が高いため条件は同じである(両方とも無給)とし、妻側の扶養とすることを希望する方向で進めることになりました」と書いています。
高齢者医療のための拠出金の増加などで、いま財政悪化に苦しむ健康保険組合は少なくありません。できるなら、共働き家庭の子どもを被扶養者として認めたくないという圧力にもなるでしょう。しかし、生まれたわが子が、宙ぶらりんの “無保険状態”になることなんて、許せないというのも親心。共働き家庭を応援するなら、法制度の変化にも敏感でいなくてはと改めて思いました。
(読売新聞メディア局 永原香代子)
【紹介したトピ】
▽子供の扶養を拒否された
【参考サイト】
▽厚労省のHPから
夫婦共同扶養の場合における被扶養者の認定について
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からの記事と詳細 ( 妻の働く会社に子どもの健康保険を届け出たら会社が拒否!? - 読売新聞オンライン )
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