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Sunday, October 31, 2021

楽天が携帯大手超え託す「スペースモバイル」 その仰天の中身 - ITpro

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 「既存大手3社に追いつくための鍵を握るのが『スペースモバイル』だ。国土面積カバーが100%になる。(日本でスペースモバイルが始まる)2023年後半には、既存3社よりも我々が高い位置に行けるのではないか」

 楽天モバイル(以下、楽天)副社長の矢澤俊介氏は、21年10月22日に開催した説明会でこのように豪語した。

 楽天は現在、NTTドコモやKDDI(au)、ソフトバンクの携帯大手3社に追いつくべく、急ピッチで全国に基地局を増やしている。21年9月時点でその数は3万局を超えたものの、携帯大手3社が10年以上かけて整備してきたネットワークとの品質の差は大きい。

 楽天がそんな携帯大手3社のネットワークを一気に超える切り札として掲げるのが、米国の新興衛星通信事業者AST & Science(以下、AST)との協業で乗り出す「スペースモバイル」計画だ。低軌道(LEO:Low Earth Orbit)に人工衛星を多数打ち上げ、4G/5Gの携帯電話のエリアをつくる。それも通常のスマートフォンから利用できるようにする。

 低軌道を活用するとはいえ、通常の携帯電話を使って人工衛星と直接通信できるサービスは前代未聞だ。常識的には難しいこのスペースモバイル計画を、楽天とASTは仰天するようなプランで乗り越えようとしている。

前代未聞のサービス実現に挑む楽天とAST。超巨大アンテナを搭載した人工衛星が計画の成否を左右しそうだ

前代未聞のサービス実現に挑む楽天とAST。超巨大アンテナを搭載した人工衛星が計画の成否を左右しそうだ

(出所:AST & Science)

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約700kmも離れた人工衛星と本当に直接通信できる?

 「全世界ではまだ約10億人以上がインターネットにつながっていない。どこに暮らしていても、世界で普及する約50億台の携帯電話と接続できるようにしたい。このマーケットは約1兆ドル(約110兆円)と巨大だ。好機をつかむためには、これまでとは違うことをする必要がある」

 このように語るのは、スペースモバイル計画の生みの親である、AST創業者で会長兼CEO(最高経営責任者)のアーベル・アヴェラン氏だ。同氏は楽天グループが21年10月に開催した自社イベント「Rakuten Optimism 2021」に登壇し、スペースモバイル計画の意義を熱弁した。

AST & Scienceの会長兼CEOのアーベル・アヴェラン氏は「どうぞ(我々の実証を)見ていてください」とスペースモバイル計画の実現に自信を見せる

AST & Scienceの会長兼CEOのアーベル・アヴェラン氏は「どうぞ(我々の実証を)見ていてください」とスペースモバイル計画の実現に自信を見せる

(出所:Rakuten Optimism 2021の様子をキャプチャー)

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 ASTとは一体どんな企業なのか。

 ASTは、これまで衛星通信事業などを手掛けてきたアヴェラン氏が17年に創業した新興企業だ。21年春には米NASDAQに上場した。通信業界の有力企業とも既に提携を結んでおり、楽天グループのほか、英Vodafone Group(ボーダフォン)や基地局向けの鉄塔のリースを手掛ける米American Tower(アメリカン・タワー)などが協業先として名を連ねる。

 そんなASTは、赤道付近の国を皮切りに22年末から、スペースモバイルの商用サービスを開始する計画だ。最大の特徴は、通常の携帯電話を使って人工衛星との間で直接4G/5Gの電波をやり取りする点である。高度約700キロメートルの低軌道に人工衛星を多数打ち上げて、人工衛星に携帯電話の基地局を載せ、直接エリアをつくる。1基で直径3000キロメートルもの巨大なエリアをカバー可能で、その中の直径20キロメートルほどのエリアにビームを当てて、4G/5Gサービスを提供するという。

スペースモバイル計画のネットワーク構成。通常の携帯電話を使って人工衛星と直接通信できる点が最大の特徴だ

スペースモバイル計画のネットワーク構成。通常の携帯電話を使って人工衛星と直接通信できる点が最大の特徴だ

(出所:AST & Science)

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 スペースモバイルの実際の利用イメージはこうだ。まずサービス提供主体は、ASTと協業する楽天やボーダフォンといった通信事業者。これら事業者の携帯電話を持つ利用者が、地上の基地局経由の通信で圏外になった際、スペースモバイルに接続するかどうかをメッセージで尋ねられる。利用者が「はい」と答えると、人工衛星経由の通信が始まる。

 現在、日本国内の携帯電話ネットワークは人口カバー率99%を超えているが、国土の面積カバー率に換算すると約70%にとどまるといわれる。スペースモバイルが実現した際には、これまで圏外になっていた山間部での緊急通話用や、災害で地上の基地局がダメージを受けた場合のバックアップ用として、大きなメリットを生みそうだ。

 ただし国内の業界関係者からは、スペースモバイル計画について「本当に実現できるのか」という疑いの声が後を絶たない。最大の課題は、上り通信だ。地上の携帯電話端末からの微弱な上り電波と、約700キロメートルも離れた上空にある人工衛星上の基地局との間で安定した通信を確立できるのか。「常識的には難しい」(業界関係者)との指摘が相次いでいる。

これまでの衛星通信サービスと、ASTのスペースモバイル計画の違い

これまでの衛星通信サービスと、ASTのスペースモバイル計画の違い

(出所:AST & Science)

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 ASTと同様に低軌道衛星を多数打ち上げて、地球全体でブロードバンドサービスの展開を狙う米SpaceX(スペースX)の巨大通信衛星網「Starlink(スターリンク)」や英OneWeb(ワンウェブ)のサービスは、いずれもサービス提供(サービスリンク)に衛星通信専用周波数帯を使い、端末には大きなアンテナを備えた衛星通信専用端末を用いる。数百キロメートルも離れた人工衛星と地上の端末が安定した通信を確立するためには、やはり衛星通信専用周波数帯と大きなアンテナを持つ専用端末が不可欠との判断からだ。

 低軌道衛星を使ったブロードバンドサービスの展開で世界の先頭を走るスペースXですら、現時点で専用周波数帯と専用端末が必要という判断を下している。このことからも、ASTのスペースモバイル計画が、いかに前代未聞であるかが分かる。

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