* * * 【in】ポイント (1)「病気でないことが健康だ」とは言えない (2)[from]ではなく[in]という教えはとても重要 (3)病のなかにあろうと患者さんの健康は守れる 年をとっても健康でありたいとみんなが思います。ナイス・エイジングにとって、健康であることは重要です。しかし、その健康とは何なのかと問われると、その答えは簡単ではありません。「病気でないことが健康だ」という方がいらっしゃるかもしれませんが、私はそうは思いません。 『南山堂医学大辞典』には、健康の概念として最も有名なのは世界保健機関(WHO)の憲章の前文にあるものだと書かれています。この健康の定義については以前にも述べましたが「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあること」(日本WHO協会訳)だというのです。この辞典ではほかに、「遺伝的に受け継いだ潜在力を、可能なかぎり発揮できること」(R.Dubos)という健康の概念も紹介しています。 だいぶ昔になりますが、「ホメオパシー」の第一人者として欧米で名高いジョージ・ヴィソルカス教授をギリシャまで訪ねていったことがあります。 教授は私の顔を見つめて「ドクター・オビツは大学で『健康とは何か』ということを学びましたか」と聞くのです。日本の医学教育では、そういうことにあまり触れません。そこで「いやあ、学んだかどうか、記憶にありません」と答えをにごしていると、教授は毅然(きぜん)としてこう語りました。
「私は健康について、(1)身体の健康とは苦痛からの解放(Freedom from Pain)、(2)心の健康とは情念からの解放(Freedom from Passion)、(3)生命の健康とは利己主義からの解放(Freedom from Egotism)と定義しています」 私はその言葉にとても納得して帰国し、対談をすることになっていた英文学者の加島祥造さんに、そのことを話しました。加島さんは亡くなりましたが、当時、信州の伊那谷で暮らし、老子についての著作を発表していて、その風貌(ふうぼう)からも“伊那谷の老子”と呼ばれていました。加島さんは話を聞いた後、少し間をおいて、こう言うのです。 「うーん。私なら[from]ではなくて[in]だなあ」 さすが伊那谷の老子です。つまり、「苦痛からの解放」ではなくて、「苦痛のなかでの解放」だというのです。 このときの加島さんの[from]ではなく[in]という教えは、とても重要です。それは、たとえ病のなか[in]にあっても、からだ、こころ、いのちが解放されていれば、健康だといえることなのです。 私は医療の本分とは、患者さんが病のなかにあっても、人間としての尊厳を保ち続けられるようにサポートすることだと思っています。それは病のなかにあろうと、患者さんの健康は守れるということが前提なのです。 帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中 ※週刊朝日 2021年1月29日号
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