5月中旬に新料金プランを導入するHISモバイル。目玉になっているのが、1GBプランだ。この料金プランは通常だと550円(税込み、以下同)かかるが、1カ月のデータ使用量が100MB未満だった場合のみ、金額が290円まで下がる。変則的な2段階の料金プランといえる。データ容量は少ないが、音声通話の従量料金が30秒9円と安く、5分間の準音声定額は550円、完全定額も1480円と比較的リーズナブルな金額で提供される。
290円という料金で狙うのが、フィーチャーフォンからの乗り換えを考えるユーザーだ。3月にはKDDIが3Gのサービスを終了。ソフトバンクやドコモもそれぞれ2024年、2026年に3Gを停波する予定で、徐々にフィーチャーフォンからの乗り換えが増えている。音声通話の利用が中心のユーザーを、維持費が破格の料金プランで取り込んでいくのがHISモバイルの戦略だ。こうしたプランを生かすため、同社はフランチャイズ方式のリアル店舗も開設した。
ユーザー数の拡大にアクセルを踏んだHISモバイルだが、その背景には何があったのか。同社で代表取締役社長を務める猪越英知氏に話を聞いた。
価格ナンバーワンの強みがなくなってしまった
―― 今回の料金プランは、290円からという金額のインパクトが大きかったと思います。この狙いを教えてください。
猪越氏 昨年(2021年)は590円の料金を出しましたが、とても大きな反響がありました。正直、あのレベルで最下限を他社に追いかけられることはないと思っていましたが、(10月のエコノミーMVNO開始に合わせて)OCN モバイル ONEも(500MB、550円の料金プランで)当ててきました。あれで、一番の強みにしていた価格ナンバーワンがいったん終わってしまったんです。OCN モバイル ONEのプランは1GBではありませんが、無料通話が付いていたり、販路が広かったりするので、市場の流れとして商品が弱まってしまったと感じていました。HISモバイルはもう一段階行きたいという思いがありました。
本当は3月から始めたかったのですが、検討事項や交渉事項があって難しかったので、3月中に発表だけはすることにしました。世の中の背景を考えると、(3月31日に実施されたKDDIの)3G停波はかなり大きなイベントだからです。また、4月からは成人年齢も18歳に引き下げられた他、物価も上がっているのが顕著になっている局面で、家計が苦しいという声も増えています。そこに合わせて、金額的にズバッといきたかった。
とはいえ、先に日本通信が290円のプランを出したいたこともあり、そのレベルに合わせなければ、最安値ではなくなってしまいます。これ以上最下限を掘っていくのは10円でも重いので、そこに合わせて290円を決定しました。ただし、日本通信は従量で1GB、290円ですが、それと同じでは面白くもなんともありません。今の1GB、590円のプランもそうですが、1GBを使い切ったあとも低速で使い続ける方が、1割から2割ぐらいいます。そういったユーザーにとっては、低速通信がないプランだと意味がありません。
どうしようかとも考えましたが、差別化しつつ、3Gの方が本当に安く使えるところにアプローチしたい、さらに低速通信を使う方にとっても使いやすいようにしたいと考えた結果、あのようなプランをご用意することになりました。ガラホ(Androidベースで4Gに対応したフィーチャーフォン)になると多少のデータ容量がついていないと使いづらいので、100MBを付けています。
1GBのユーザーが10〜15%ほどいる
―― 日本通信の「合理的シンプル290プラン」は、そのままデータ通信ができなくなるか、金額が上がってしまうので、そこが違うということですね。
猪越氏 はい。1GBを使い切ってそのまま低速で使うか、もしくは使っていないというユーザーが10%から15%ぐらいいます。完全に待受けだけと言う方も10%ちょっといて、ガラケー(フィーチャーフォン)なりサブ機などに入れていたり、取りあえず電話番号だけ取っていたりします。
―― 3Gの停波に合わせたというお話もありましたが、フィーチャーフォンを使い続けるユーザーは、あまりキャリアを変えないような印象もあります。この点はいかがでしょうか。
猪越氏 切り替えについてはご本人でなく、その子ども世代がやると思っています。30代から60代ぐらいまでの方が、60代から90代ぐらいの親世代の方に切り替えてもらうプランにできたらと考えています。料金プランと同時にHISモバイルステーションを発表した背景も、そこにあります。年配の方が知らないショップに来てやるというのではなく、自分たちのスマホが安くならないかと思って来た方がついでに(親の回線も)変えるということを想定しています。契約しやすいプランを出すことで、そういった層にも刺さりやすくなります。
―― HISの知名度はあるので、日本通信が290円のプランを出すよりインパクトは大きそうです。
猪越氏 おっしゃるように、一部アンケートでは、HISだからというお声をいただいていますし、ネットでもそういうお客さまはいます。ただ、いかんせん、本体が弱ってしまっているのでなかなかお金を引っ張ってくることができません。親が弱っているので、子どもが代わりに稼いでいる感じですね(笑)。
そのため、ライバルと同じような広告出稿量では戦えません。イメージ戦略をやっている大手と同じようにやることはできない。店舗があるので(ユーザーを)獲得できるという甘い判断はしていません。
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実は7GBプランが一番値下げをした
―― 個人的には、7GBで990円のプランが実は一番多くのユーザーが加入するのではと思いました。割と普通に使えて1000円以下というのも安いですよね。
猪越氏 ありえると思っています。実は一番値下げしたのがここなんです。7GBになると、カバーできる方が非常に多くなります。そこが1000円以下という掛け算で、相乗効果が一番出るのではないでしょうか。「よく分からないけど、1000円出しておけばOK」という方は意外と多い。1GBや3GBだと足りるのか足りなくなるのか分かりませんが、7GBあればたいていの方は間に合いますからね。ガラケーからガラケーに変える人より、ガラケーからスマホに変える人の方が多いので、その際に何を選べばいいのか分からないという場合、7GBは安心感があります。そのような分かりやすさも含めてつけた料金です。
―― 大手キャリアも、以前は7GBが主力のデータ容量だったので、移りやすいというのはありそうですね。
猪越氏 統計的に見ても7GBが結構多かったですね。(プランの区切りとして)1GB、3GB、7GBとなっているところも多いので、比べられやすいようにして、あえて安いところに持っていきました。
―― 値下げの原資として、卸価格や接続料の値下げは前回導入した料金プランに反映していたと思います。今回はどのような形で値下げできたのでしょうか。
猪越氏 1つは利幅を削っていることです。もう1つは、2月に発表された(接続料の)届け出で料金がかなり下がっていたことです。前回は1GBや3GBをギュッと絞っていた反面、5GBや7GBはいっぱいいっぱいであまり(値下げが)できていませんでしたが、そこが見透かされてしまいました。せっかくユーザーが来ても契約していただけないのであれば、ゼロを掛けているようなもので(収益も)ゼロになってしまいます。どうせ今ユーザーがいないのであれば、もっと踏み込んでもいいという思いはありました。
料金プランは何回も作っていますが、やはり難しいですね。開発期間や費用的なところもあり、寿命が短いプランはダメだという考えもありました。ワンプランで2、3年持つのであれば、そこを先取りした価格にしたい。みなさん、大容量に行かれていますが、OCN モバイル ONEが550円プランを出した時点で、その下には先行きがないと思っていると判断しました。上(のデータ容量で)で無理をして戦うと、ドコモのahamo大盛りのようなものもありえますが、その領域には踏み込まないようにしました。緩やかには戦うので選択肢がないのはダメですが、取りあえず80%のユーザーに刺さればということでやっています。
音声通話の従量課金は日本通信より安く
―― ちなみに、現行の料金プランは全てのデータ容量をひっくるめて「格安ステップ」という総称がついていますが、今回は「新料金プラン」としかうたっていません。
猪越氏 それは、これから付けます(笑)。今、ちょうど最終選考に入っているところです。
―― 格安ステップをそのままにしつつ料金だけ下げることもできたと思いますが、そうしなかったのはなぜでしょうか。
猪越氏 検討をしている中で、「あれができる」「これができる」ということがあり、それが全て同じ料金プランの枠内でできるのかが決まらなかったからです。そもそも別プランと決めていた方が、何かを動かすときに融通が利きやすい。実は発表会を開催するギリギリのギリギリまで、100MBを290円で行くこと、そこを従量でやることが決まっていませんでした。価格とデータ容量のプロットはある程度決まっていましたが、そこは本当にギリギリでした。別プランとして走らせることだけは決めていましたが、100MBの設計思想が違うので変えてよかったと思います。
―― 通話料が安いのはMVNEの日本通信がドコモから調達している音声卸の価格を反映してのことだと思いますが、従量部分の30秒9円は日本通信より安くなっています。日本通信の方が音声通話で利益を出している、ということでしょうか(笑)。
猪越氏 想定される原価があり、その中で30秒11円(日本通信の音声通話の価格)で取れる利益があります。ということは、原価はもっと安い。3Gのユーザーが安く使えるという特徴を出すためにも、音声通話が安くないとダメだと思っていました。最安値を取れるところでは取るという方針で、30秒9円にしています。音声通話の通話料は、もともと勝負のしどころではないので、あえて皆さんここでは戦いませんが、われわれはこれも選択肢として捉えた方がいいと考えました。
現状では、主回線としてガンガン使われているというわけではないので、逆に言えば使う方が増えればトータルでメリットが出ます。日本通信から回線を仕入れることで、結果的に他社より安くできているところを世の中に還元した形ですね。ただ、実は2円安くしたかったのではなく、消費税と小数点の兼ね合いで10円にできなかったので9円にしたのですが(笑)。
―― そこはシステム都合だったんですね(笑)。とはいえ、通話定額のオプションも安いと思います。
猪越氏 オプションとしては最安値ではありません。ただ、基本料金が最低290円と安いので、音声のかけ放題だけを使うなら弊社が安くなります。
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Androidフィーチャーフォンの提供も検討、店舗も順次立ち上げ
―― そういった料金プランの場合、Androidベースのフィーチャーフォンがあると便利に使えそうですが、現在ラインアップにありません。どのようにお考えでしょうか。
猪越氏 中古の端末は扱っていますが、新品はありません。端末を作る、作らないという話はしていて、そこがちょっと前に進んでいない状況です。料金プランと同時に発表できればかなり前向きな話になったのですが、料金プランの発表ありきで先に進んでしまいました。ガラホのようなものを安く作れないかは、並行して進めているので、今後出る可能性はあります。
折りたたみの電話になぜニーズがあるのかというと、おじいさん、おばあさんだけというわけではなく、例えば工事現場で手袋をしている方からも、ボタンがないと使えないという声が挙がっています。そこに対して、電話メインならうちが安いですが、さらに端末も一緒にいかがですか、ということはすごくやりたい。状況がよさそうなら、本当に開発して作ろうと思っています。
―― その端末がHISモバイルステーションで販売されていたら、セット販売しやすそうですね。その店舗ですが、どのように広げていく予定でしょうか。
猪越氏 フランチャイズオーナー制なので、応募状況次第ですが、今のペースだと月に数店舗は開けると思います。広島はほぼ決まっていて、4月中にオープンできそうです。その後も、ポロポロと話が決まり始めています。
―― どういったところが応募しているのでしょうか。
猪越氏 空いている店舗がある不動産オーナーが多いですが、キャリアショップを運営しているそれなりに大きな企業からも応募があります。今回は修理なども含めてやり、MVNOに特化しているわけではありませんが、別の案件で修理をするという方もいます。余力のある企業が路面で何かやってみたいということや人脈があって、自分たちのユーザーに月額課金を継続してもらえるという方々も応募しています。
―― HISの店舗は活用しないのでしょうか。
猪越氏 チラシは置かせてもらおうと思っていますが、今はコロナ禍でお客さんが誰も来ない。新しいものを出すための従業員もいないので、そこにリソースを割いても調整にばかり時間がかかってしまいます。ですから、やってもチラシまでですね。旅行のスタッフがMVNOの案内までする予定はありませんし、恐らくやれません。また、テナントに入っているような店舗では、競合他社排除の条項が入っていることもあります。チラシを渡すぐらいなら大丈夫なのですが、携帯を売るとなると他社からクレームが入ってしまうこともあり、難しいですね。
旅行者が減って、届けたいところに届けられていない
―― 新料金プランは100MB未満から7GBまでがターゲットですが、中容量プランは「格安弐拾プラン」がそのままです。ここは改定する予定などはないのでしょうか。
猪越氏 残しています。20GBプランは、新料金プランに統合してしまうのか、そのまま残すのかは、今も検討中です。プランが別だと分かりにくいという声もあるので、分散させるより、同じフレームに入れて、音声通話やかけ放題が安いというふうにした方がいいという考えもあります。ですから、7GBの上に20GBを作る可能性はあります。ただ、そこは競争もすごく激しい。これを1500円ぐらいにして、というようなことはまったく考えていません。
―― MVNEの日本通信が音声通話対応のeSIMを始めました。HISモバイルでも利用できると思いますが、今後ありえますか。
猪越氏 ありえます。ただし、今すぐ欲しいとは思っていないので、置いたままにしてもらっています。将来的には訪日外国人の旅行者が来たときなどに、データSIMをやれると思います。場合によっては、海外に現地店があれば音声もやれます。代理店は上海やベトナムなどに届け出があり、音声の開通もできます。今はSIMを物理的に送ってというスキームですが、eSIMが増えてくれば現地で本人確認をしてもらい、日本に来る前に契約するといったアイデアは出しています。
―― 以前、当面の目標は50万契約というお話をうかがいました。現状はどのぐらいで目標達成は可能かどうかを教えてください。
猪越氏 規模感でいうと、2桁万契約の入口ぐらいです。(達成できるかどうかは)新料金プランの反響次第だと思っています。以前は新プランを出してもほとんど反応がありませんでしたが、格安ステップやかけ放題などを始めてから、増えてきました。Webでの露出量が増えているのはもちろん、日々の新規契約者数も増えています。
2年、3年で旅行需要が戻ってくるのであれば、社内的なパワーもついてきます。HISのお客さまにも一緒に発信していきたい。今は、旅行のお客さまが減っていて、届けたいところに届けられていません。本来掛け算になるところがなっていないと感じています。
取材を終えて:290円の背景に納得、フィーチャーフォンにも期待
100MB未満290円という大胆な料金プランが誕生した背景に、OCN モバイル ONEの500MBプランがあったのは面白いエピソードだ。実際、両プランともフィーチャーフォンからスマートフォンへ買い替えるユーザーをターゲットにしている。エコノミーMVNOで販路の広いOCN モバイル ONEに対抗するためには、290円というインパクトが必要だったというわけだ。
一方で、3Gケータイからの切り替えを考えると、やはりフィーチャーフォン型の端末は必要なようにも思える。スマートフォンでよければ、大手キャリア内で契約変更してしまえば済むからだ。HISモバイルでは独自端末の開発も検討しているというが、ぜひ実現してほしいと感じた。また、日本の水際対策も徐々に緩和され、海外への渡航が復活し始めている。インタビューにも出てきたeSIMを使った新サービスの登場にも期待したい。
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