大手キャリアの料金値下げに対抗する形でさらなる低価格化、低容量化を余儀なくされているMVNOだが、楽天モバイルやLINEモバイルがMNOに転じたこともあり、契約者数はほぼ横ばいの状態が続いている。総務省が2021年12月に発表したデータからも、いわゆる「格安SIM」や「格安スマホ」と呼ばれるSIMカード型のMVNOが苦戦を強いられている様子が見て取れる。純減にはなっていないものの、四半期で3万契約しか伸びておらず、成長が止まってしまった格好だ。
一方で、生き残りをかけたMVNO各社は、これまでの枠組みに収まらないさまざまな料金プランを打ち出し始めている。4月1日に20GBの中容量プランを拡大したソニーグループのNUROモバイルは、そんなMVNOの1社だ。くしくも同じ3月最終週には、HISと日本通信が合弁で設立したHISモバイルも、5月中旬以降に導入する新料金プランを発表している。
中容量プランを拡充するNUROモバイルと超低価格路線を志向するHISモバイルといった形で、その中身は対極的だが、他社にない特徴を追求している姿勢は共通している。MVNOはこの先、生き残ることができるのか。2社の取り組みを見ながら、その行方を占っていきたい。
データフリーや追加のデータ容量を削って料金を抑えた「NEOプランLite」
NUROモバイルが新たに導入したのは、データ容量が20GBの「NEOプランLite」だ。料金は2090円(税込み、以下同)で、大手3社が導入しているオンライン専用料金プラン/ブランドより一段割安な料金を打ち出している。ahamoは5分の音声通話定額込みで2970円、povo2.0の20GBトッピングは2700円、LINEMOの「スマホプラン」は2728円で、3社の料金プランと比べると610円から880円安い。
同社は2021年11月に同じ20GBの「NEOプラン」を導入しているが、NEOプランはその廉価版という位置付けになる。ただし、NEOプランとNEOプランLiteにデータ容量の差はない。TwitterやInstagram、LINEといった特定のサービスのデータ容量を通信量から除外する「NEOデータフリー」や、アップロードのデータ容量が無制限になる「あげ放題」に非対応な点が、“Lite”と呼ばれているゆえんになる。
また、NEOプランは3カ月に1回、追加で有効期限が3カ月間のデータ容量を15GB受け取れる「Gigaプラス」に対応しているが、NEOプランLiteにはこの特典も用意されていない。表面上のデータ容量は20GBと同じだが、NEOプランは実質的に25GBプランで、一部SNSやアップロードが使い放題になるため、NEOプランLiteの方がトータルでは使えるデータ容量が少ないといえそうだ。
一方で、通信品質の高さを売りにしているところは、NEOプランとNEOプランLiteの共通点だ。MVNOはMNOから帯域単位で回線を借りるが、お昼休みの時間帯などにあたるトラフィックのピークが突出しているため、ここに合わせるとどうしてもコストがかさみすぎてしまう。一部時間帯に通信速度が低下するMVNOが多いのは、そのためだ。
NEOプラン、NEOプランLite用の帯域は他の料金プランとは切り離されており、ソニーグループのAIを活用することで、自動的にその割り当てを変えている。NUROモバイルがMNOから借りる帯域の全体量が増えるわけではないが、バリュープラスや法人用の回線と合わせて最適化を図れるのがメリットだ。結果として、NEOプランは一般的なMVNOでトラフィックがピークになるお昼休みの時間帯でも、速度が安定しているという。
電気通信サービス向上推進協議会の定めたガイドラインに基づき、第三者機関が2021年12月に測定した通信速度は、平均で150Mbpsを記録。平日のお昼休みや帰宅後の21時以降の時間帯にはわずかながら速度が低下している様子が見て取れるが、谷間は小さく、安定して高速な通信ができていることが分かる。通信品質を上げ、データ使用量が多い若年層を取り込むのが、NUROモバイルの狙いだ。NEOプランLiteも、この特徴はそのまま受け継いでいる。
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大手のオンライン専用プランと価格で差別化し、中容量プランの拡大を狙う
とはいえ、NEOプランの価格は2699円とMVNOにしては高く、大手キャリアのオンライン専用プランとはほぼ横並びになっている。先に挙げた他社の料金と比べると、povo2.0の2700円より1円安いだけで、ahamoやLINEMOとの差もほぼない。実質的なデータ容量が月5GB多かったり、ゼロレーティングのサービスを本格的に導入していたりといった強みはあるものの、金額的なインパクトは小さかった。
NUROモバイルを運営するソニーネットワークコミュニケーションズのMVNO事業室 セールス&マーケティング課 課長の田中直樹氏は、「高品質の通信だけでなく、NEROデータフリーもご好評をいただいている」としながら、「一方でもう少しリーズナブルな価格でNEOプランをご利用したいというご要望に対応した」と語る。通信品質の高さに対する満足度は高いが、金額が契約のハードルになっていたというわけだ。
NEOプラン自体の契約者数は「計画通りで順調」(同)というが、中容量帯の料金プランの規模を拡大していく上で、機能を絞って価格を引き下げることが必要だと判断したことがうかがえる。田中氏が「もう少しSNSを使いたい方や動画を楽しみたい方、あげ放題でアップロードをカウントフリーでご利用したい方がいれば、(NEOプランに)プラン変更していただけるのではないか」と語るように、母集団が増えれば、上位のプランへ移行するユーザーが増える効果も期待できる。
2021年4月にバリュープラス、11月にNEOプランを導入し、矢継ぎ早に料金プランを刷新しているNUROモバイルだが、契約者の獲得は大きく伸びたという。田中氏によると、新規契約者数は前年度対比で3.5倍になり、ユーザーの満足度や推奨度(NPS)も大きく向上した。特にNEOプランは、「94%が満足と回答している」(同)というように、実際に契約しているユーザーからの評価が高い。MVNO市場全体が停滞する中で成長できたのは、差別化戦略が成功した証といえそうだ。
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100MB未満290円を打ち出したHISモバイル、そのターゲットは音声中心の3Gユーザー
中容量プランを拡充したNUROモバイルとは逆に、MVNOの魅力である“安さ”に磨きをかけたのが、HISモバイルだ。同社は2021年に1GBから7GBまで選択できる「格安ステップ」を導入していたが、これを置き換える形で新料金プランの提供を開始する。当初、提供時期は、6月上旬を予定していたが、同社代表取締役社長の猪越英知氏は「5月中旬ぐらいまでにはいけるのではないか。できればゴールデンウィーク前には提供したい」と語り、前倒しを示唆している。
HISモバイルの新料金プランは、290円という価格が最大の特徴だ。290円は、1GBプランの金額で、使用したデータ容量が100MB未満の場合。データ使用量が100MB以上になると550円になり、1GBを超えると通信速度が制限される仕組みだ。100MBまでとなるとバックグラウンドで自動的に通信するスマートフォンにはあまり向かいないようにも見えるが、猪越氏によると狙いは3G停波に伴い、フィーチャーフォンから移行するユーザーだという。
こうしたユーザーは通話の利用が中心になるため、通話料もMNOの半額以下となる30秒9円に設定。音声通話定額は「5分かけ放題」と「完全かけ放題」の2つを用意し、いずれも料金を抑えた。5分かけ放題は月額500円、完全かけ放題は1480円。100MB未満で290円になる料金プランと組み合わせると、前者が790円、後者が1770円になり、いずれも他のMVNOよりリーズナブルだ。
290円で維持されるユーザーばかりだと収益への貢献は低く、コストを賄うのが難しくなりそうだ。猪越氏も「(全員が)290円だけだと厳しい」と認める。一方で、「全員がそこになるのではなく、実際には2割ぐらいで、他が(音声通話などを)使ってくれれば成り立つ」(同)。音声通話中心のユーザーであれば5分かけ放題か完全かけ放題をつけるため、ARPU(1ユーザーあたりからの平均収入)は上がるという見立てだ。
通話料がMNOや他のMVNOと比べて安価なのは、同社に回線を提供しているのが、音声卸の値下げに成功した日本通信だからだ。日本通信は、2019年11月にドコモとの交渉が不調に終わったことを受け、総務大臣裁定を申請。2020年6月に総務大臣裁定がくだり、原価に適正な利潤を足した額で音声通話を卸すことが決まっている。HISモバイルも、その恩恵を受けている1社。他社より卸価格が安い音声通話を武器にするのは、合理的な差別化戦略といえる。
20GBで2090円のNEOプランLiteと、100MB未満で290円の1GBプランは、金額もデータ容量も真逆だ。その中であえて共通点を見いだすとすれば、どちらも他社にない特徴を全面に打ち出した料金プランといえる。コスト構造が近く、料金プランが横並びになりがちなMVNOだが、2社の新料金プランを見ると、工夫の余地はまだまだ残されているようにも思えてくる。こうした多様化は、MVNOが生き残るための鍵になりそうだ。
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からの記事と詳細 ( 「中容量」と「3G巻き取り」でMNOに対抗 NUROモバイルとHISモバイルの新料金プランを解説:石野純也のMobile Eye(1/3 ページ) - - ITmedia Mobile )
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