- 健康度が低いほど外出や運動の習慣が減少し、転倒の経験や不安が増大。コロナ禍の外出自粛が傾向に拍車
- 食事は、健常者に比べてプレフレイル(前虚弱)入居者で、食欲が減退している比率が増加
- 健康度の後退と比例して、家族との交流頻度が増える一方、友人との交流が減少。交流の変化がフレイル化の兆候をはかるバロメーターのひとつに
- 日常の生活行動を「運動」のチャンスとする事で、自宅に居ながら運動の機会を確保することが重要
- 食事好きな人は食をきっかけとした交流でいっしょに外出するなど、運動・食事・交流のどれか一つが好きならその他と組み合わせることでフレイル防止効果がアップ
今回の調査は、フレイル(虚弱)に至る前段階の健康状態である「プレフレイル」のシニアを対象としたこと、さらに元気なシニア向け賃貸住宅「ヘーベルVillage」を運営する当社事業の特長を生かし、健常な後期高齢者層の生活実態や意識を調査したことで、希少なデータを得られました。さらに介護・フレイル予防の第一人者として、常に臨床の場に身を置く大渕先生にご協力頂けたことで、在宅で実施できるフレイル予防の取り組みを含む貴重な知見を得ることができました。これらを生かして、今後も高齢者が安心して暮らすことができる住宅の設計を心がけていきたいと考えています。
当社は人生100年時代を生きる人びとの「いのち・くらし・人生」全般を支え続けるLONGLIFEな商品・サービスの提案に努めております。今後も引き続き皆様が生き生きと自立生活を送ることができる住まい・サービスを提案することで、世の中に必要とされる企業を目指してまいります。
■調査の背景と目的
人生100年時代に突入したといわれるわが国では、国民の平均寿命は延びたものの、老齢期に日常生活に制限のある健康状態、いわゆる要介護状態で過ごす期間は男性で約10年弱、女性では約13年弱の状態がこの20年程続いています(図1)。生涯を日常生活に制限なく過ごすことは、多くの国民にとっての願いであり、国にとっても健康寿命の延伸は介護給付費を含む高齢者関係給付費の増大や介護人材の慢性的不足など(図2・図3)の諸問題解決に向け、健康寿命の延伸は大切なテーマとなっています。
出典:令和2年度 厚生労働白書より作成
※2019、2020年の平均寿命については令和2年簡易生命表より作成
※2019年の健康寿命については厚生労働省 令和3年12月20日 第16回健康日本21(第二次)推進専門委員会資料3-1参照
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000872952.pdf
資料:平均寿命については、2010年につき厚生労働省政策統括官付参事官付人口動態・保健社会統計室「完全生命表」、他の年につき「簡易生命表」、健康寿命については厚生労働省政策統括官付参事官付人口動態・保健社会統計室「簡易生命表」、「人口動態統計」、厚生労働省政策統括官付参事官付世帯統計室「国民生活基礎調査」、総務省統計局「人口推計」より算出。
出典:厚生労働省 令和2年度 介護給付費等実態統計より作成
1)平成18年度に要介護区分を細分化し、介護予防サービスを創設した。
2)平成26年の介護保険法改正に伴い、介護予防サービスのうち 「介護予防訪問介護」及び「介護予防通所介護」は、平成29年度末までに「介護予防・日常生活支援総合事業」における「介護予防・生活 支援サービス事業」に移行された。
3)「年間累計受給者数」は、各年度とも5月から翌年4月の各審査月の介護予防サービス又は介護サービス受給者数の合計である。
出典:厚生労働省職業安定業務統計
第21表 職業別労働市場関係指標(実数)(平成23年改定)(平成24年3月~)より抜粋して作成
※介護関係職種は、「福祉施設指導専門員」、「その他の社会福祉の専門的職業」、「家政婦(夫)、家事手伝」、「介護サービスの職業」の合計
※職業別有効求人倍率はパートタイムを含む常用
近年、健常な状態と要介護状態のはざまの状態を「フレイル(虚弱)」と定義し、「運動・食事・交流」をポイントとしたフレイル予防の取り組みがひろがっており、国も生涯学習や多世代交流などを通した社会参加を促す各種施策をすすめています。一方で新型コロナウィルスのパンデミックを受けた外出機会の激減などによって、高齢者の社会参加機会減少に伴うフレイル化の進展が新たな問題になりつつあります。
当社は超高齢社会における長い高齢期を心豊かに暮らすための住まいやサービスを研究する目的で、2014年に「シニアライフ研究所」を設立しています。翌2015年には単身世帯の高齢者にとっての暮らしの豊かさについて※1、また2018年にはフレイル期の高齢者向けの総合的な生活支援サービスの意義と可能性についての研究結果などを公表※2し、自立期の高齢者が豊かに暮らせる住まいやサービスの研究に取り組んでまいりました。一方で建築請負事業においても、自立期の元気な高齢者の住まいづくりに早くから着目し、2005年から元気なシニア向け賃貸住宅「ヘーベルVillage」の提供を開始し、昨年7月までに同建物の住戸が1,200戸を超えるなど、着実に実績を重ねてきました。
「ヘーベルVillage」の入居者には、その運営目的に沿った後期高齢者(75歳以上)且つ元気な「プレフレイル」のシニアが多く、この層への生活実態や意識に関するデータはまだ珍しいことから、今回新たに調査を実施することとしました。また、介護及びフレイル予防の第一人者であり、臨床の場で常に高齢者と向き合われてきた大渕修一氏の助力を得て共同研究を実施することで、高齢者の実態に即した実効性の高いフレイル予 防策と、今後の事業及び研究継続に向けた有効な知見を得ることを目指しました。
※1 調査報告書アーカイヴ:https://www.asahi-kasei.co.jp/j-koho/kurashi/report/archive.html/
※2 関連ニュースレター:https://www.asahi-kasei.co.jp/j-koho/press/20180912/index/
■調査の概要
- 調査の目的:健康度ごとの生活実態の把握と、空間・サービス設計の条件を明らかにする
- 調査時期:2019~2021年
- 調査方法:アンケート調査・測定調査(お達者健診PLUS)・面談記録分析・インタビュー調査
- 調査対象:ヘーベルVillage入居者
- 調査対象数:ヘーベルVillage13棟159名(内測定参加者146名・インタビュー調査6名)
■主な調査結果
1.健康度が低いほど外出や運動の習慣が減少し、転倒の経験や不安が増大。コロナ禍の外出自粛が傾向に拍車
健康度は、J-CHS基準を用いて、「ロバスト(健常)」「プレフレイル」「フレイル」の3区分で集計しました。その結果、健康度が低いほど、外出頻度では39pt、軽い運動・体操の習慣では69pt、スポーツの習慣では52pt、実施している割合が低いことがわかりました。一方で、健康度が低くても外出の頻度が高い人や、運動習慣がある人は存在しており、どのような内容で、運動に関わる行動が行われているのか、くらしの中での実態把握が重要です。運動の内容に着目したケーススタディの結果、健康度によって運動の強度が異なることがわかりました。ロバストでは散歩やウォーキングに加え、テニスやゴルフ、登山など「強度の高い」運動が行われている一方、プレフレイル・フレイルでは、買い物ついでのウォーキングや散歩が主体となり、ロバストと比較すると強度の低い運動が行われていることがわかりました。
2.食事は、健常者に比べてプレフレイル(前虚弱)入居者で、食欲が減退している比率が増加
食事で、健康度ごとの差が顕著なのは、「食欲」でした。食欲があるとする回答は、ロバストの53ptから、プレフレイル39pt、フレイル29ptまで低くなっています。一方で、10品目中7品目の多品目摂取についてはロバストからプレフレイルで8.3ptの減少に対し、プレフレイルからフレイルでは29.9ptと大幅に減少しています。食欲の低下に対し、多品目摂取ではプレフレイルでの減少が少なく、「少量でも多品種を」といった行動がとられている可能性があります。なお、自分で食事を用意する頻度では健康度による差がなく、低い健康度でも維持されている傾向が見られました。食事に着目したケーススタディの結果、健康度によって「外部の食サービスの利用ニーズ」が異なることがわかりました。ロバストでは食材の買い出しから調理まですべて自分で行われますが、プレフレイル・フレイルでは「重いものは宅配サービスを利用している」などの実態があり、外部の食サービスの利用ニーズが高まります。一方で、「旬の食材選びを楽しむ」などの行動は共通してあり、このことが低い健康度でも多品目摂取が維持されている要因である可能性が示唆されました。
3.健康度の後退と比例して、家族との交流頻度が増える一方、友人との交流が減少。交流の変化がフレイル化の兆候をはかるバロメーターのひとつに
交流では、健康度が低いと家族との交流が多くなり、友人との交流が少ないことが特徴です。家族と週1回以上交流のある比率は、ロバストからプレフレイルで14pt多くなっています。友人との交流では、ロバストとプレフレイルでは差がほぼありませんが、プレフレイルからフレイルでは14.2pt少なくなっています。一方で、「ヘーベルVillage」内の他入居者との交流では、健康度による差は小さくなっています。
交流に着目したケーススタディの結果も、同様の傾向を示す事例があり、健康度によって交流の「範囲」が異なることがわかりました。ロバストでは、学生時代の友人や会社のOB、ボランティア活動など、旧縁や地域コミュニティでの交流が活発な一方、プレフレイル・フレイルでは家族や「ヘーベルVillage」内での交流への言及が見られ、身近な環境での交流が充実している様子が見られました。
4.日常の生活行動を「運動」のチャンスとする事で、自宅に居ながら運動の機会を確保することが重要
データ分析とケーススタディより、健康度が低くても、強度の低い運動には取り組んでいる様子が明らかになりました。「健康度が低いと運動をしなくなる」のではなく、「低い健康度では運動の強度が下がる」というのが生活実態であると考えられます。インタビュー調査の結果、「元気なのは、食事を作るから」という意見が見られました。家事も家の中での活動を維持する重要な「運動」であると捉えることが可能で、家の中での活動をなくさないことが重要であると考えられます。
5.食事好きな人は食をきっかけとした交流でいっしょに外出するなど、運動・食事・交流のどれか一つが好きならその他と組み合わせることでフレイル防止効果がアップ
調査では、交流を通じて、運動が充実した事例や、交流を通じて食事が充実した事例などが見られました。「ヘーベルVillage」内での交流をきっかけに、地域活動である「公園まで歩く会」に定期的に参加するようになった(case2)や、地域の体操教室に週1回参加するようになったという事例が報告されました。どちらも、他入居者とのつながりを起点に、地域で行われる運動の取り組みの参加を実現していることが注目されます。自分一人で新しいことを始めるハードルを、交流によって下げているのではないかと考えることもでき、フレイル予防を実現するうえでの重要な要素ではないかと考えられます。「ヘーベルVillage」内で気の合う入居者同士でうなぎの出前を頼み一緒に食べたり、公園まで散歩したり、ランチのために外出する(case4)などの事例も見られました。うなぎの出前に関しては「1つでは頼みづらく声をかけあって頼めてよかった。」の記述もあり、交流があったからこその食事の充実であったと考えられます。また、「お花見」などの楽しみとセットになっている点も、生活の充実という観点から注目されます。このように、自分の好きなことや得意なこと、現状で行っていることをきっかけとして、運動・栄養・交流が強化される可能性が示されました。
【大渕 修一氏 プロフィール】
介護予防の第一人者で、専門は、理学療法学、老年学、リハビリテーション医学など。厚生労働省の介護予防制度立ち上げ時から携わり、2015年の介護保険法改正により「地域ケア包括システム」のひとつの事業として創設された「介護予防・日常生活支援総合事業」においてサービス利用を決める「基本チェックリスト」の作成にも関わる。第72回保健文化賞受賞。
【地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター研究所について】
東京都健康長寿医療センター研究所は、1872年に設立された養育院を前身としています。令和の紙幣を飾る澁澤栄一翁は養育院の初代院長でもあり、福祉・医療事業の維持・発展のため五十有余年にわたり力を尽くされました。その精神は、先人たちにより脈々と受け継がれ、2009年に東京都老人医療センターと東京都老人総合研究所両施設が一体化するかたちで地方独立行政法人となり、今日に至ってもなお、高齢者医療のパイオニア・老年学研究の拠点として、活発な診療・研究活動を展開しています。令和3年4月には「東京都介護予防・フレイル予防推進支援センター」を設立し、より積極的にフレイル予防に取り組んでいます。
以上
からの記事と詳細 ( シニアライフ研究所調査報告「ヘーベルVillage」入居者の健康度とくらしの実態に関する調査 - PR TIMES )
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