ビフィズス菌は高齢者の健康とどう関わっているのでしょうか。今回は順天堂大学名誉教授で研究の指揮を執る佐藤信紘さんと、ともに研究を進める森永乳業研究本部基礎研究所フロンティア研究室副室長の勝又紀子さんに、ビフィズス菌が果たす健康への役割について、研究成果を伺いました。(全3回)
ビフィズス菌 認知機能に影響
――ビフィズス菌は、高齢者の健康にどのような役割を果たすと考えられますか?
佐藤 高齢になると便秘の人が増えますが、最近の研究で便秘は生存率を下げ、寿命を縮めることが明らかになっています。私は高齢者の便秘の一因は、赤ちゃんのときには腸内に多量にあったビフィズス菌が、年齢とともに著しく減ることが一因にあると考えています。ヒトを対象にした比較試験で、特定のビフィズス菌に便秘を解消する効果があることも明らかになっています。
勝又 ビフィズス菌には様々な種類があり、ヒトとヒト以外にすんでいるビフィズス菌では種類が違います。ヒトの腸内にあるビフィズス菌でも、赤ちゃんと大人では種類が違います。森永乳業の研究では、赤ちゃんの腸内から分離した特定のビフィズス菌をMCI(軽度認知障害)の高齢者にとってもらうと、認知機能の一部である記憶力が維持されるという結果が得られました。現在は、なぜビフィズス菌が認知機能に影響するのかを解き明かすために研究を進めています。
また、新たな研究成果として、ある特定のビフィズス菌が、筋量を増やし、筋力を高める可能性を秘めていることがわかってきました。この結果を受けて、現在、佐藤先生にご協力いただき、あるニュータウンの高齢者の方を対象にして新たな研究をスタートさせる予定です。
佐藤 寝たきりの原因として、昨今大きな問題となっているのが、筋力が低下する「サルコペニア」、ひざ痛や腰痛などで歩きにくくなる「ロコモ症候群」、そして心身が衰弱した状態の「フレイル」です。今回の研究では、高齢者に3カ月間特定のビフィズス菌を飲んでもらい、握力や歩幅などの筋力、便通などの変化を調べる予定で、その結果に大いに期待しています。
勝又 研究にご協力いただいているニュータウンでは、佐藤先生が多様な健康講座を開かれていて、住民である高齢者の方たちの意識が高く、腸内フローラ(※)にも興味をお持ちです。病院の患者さんではなく、住民の方たちを対象に研究できることの意義は大きく、佐藤先生にはさまざまな人脈をご紹介いただいて、感謝しています。
医学的にビフィズス菌を研究
――これからの研究テーマを教えてください。
佐藤 人類は進化と共に食物からエネルギーを得るのみならず、腸内フローラとの共生で、人類が消化できない、あるいは作ることができない物質をエネルギー源や生理活性物質として手に入れてきました。いかなる菌叢が有益であり、いかなるものが有害なのかを見極め、将来的に食糧問題の危機を迎える可能性がある地球環境の変化に耐えて、人類が豊かに他の生物と共存できるように、研究を続けていこうと考えています。
森永乳業との共同研究を通して、森永乳業がビフィズス菌の基礎研究と臨床試験の成果を科学論文として発表し、エビデンスに基づいた商品を作ることで、社会に貢献しようという姿勢が伝わってきます。
勝又 ありがとうございます。これからも医学的な見地からお力をお借りしたいと思います。森永乳業は食品会社なので、食を通じた社会貢献のため研究を続けています。佐藤先生がおっしゃったように「おいしく食べる」ことにもこだわっていきたいと思います。
※腸内フローラ 腸内にすみついている多種多様な細菌が、群れをなして生息している様子が花畑(フローラ)に似ていることから、こう呼ばれる。
-
この連載について / 腸戦者に訊く
ビフィズス菌は1500万年にわたって人類と共存してきました。ヒト由来のビフィズス菌に50年以上にわたって向き合い、研究の成果を人々の暮らしに役立ててきた森永乳業の研究者たちに挑戦の軌跡を訊(き)きました。
からの記事と詳細 ( ビフィズス菌 健康とおいしさの両立 - 朝日新聞デジタル )
https://ift.tt/3d4ttVl
No comments:
Post a Comment