水俣病被害者救済法(特措法)に基づく住民の健康調査をめぐり、国立水俣病総合研究センター(国水研、熊本県水俣市)が取り組む研究の報告会が30日、水俣市であった。国水研の中村政明臨床部長(58)は、水俣病の典型症状である感覚障害だけでなく、運動失調も磁気共鳴画像装置(MRI)を使って「客観的に評価できるめどが立った」との認識を示した。
2009年施行の特措法は、水俣病が起きた地域とその周辺で暮らしていた住民の健康調査について、政府に「積極的かつ速やかに行い、その結果を公表する」ことを求めている。だが、12年たっても調査は実施されていない。
特措法は調査のための「手法の開発」も定めており、国水研は脳の活動から発生するわずかな磁気を計測する脳磁計とMRIを使った「水俣病を含むメチル水銀中毒の客観的な診断法の確立」を進めてきた。
中村部長はこの日、研究の進捗(しんちょく)度について「少なくとも7合目に来ている」と述べた。昨年12月以来となる報告会は水俣病情報センターであった。水俣病の認定患者42人(50~80代)を調べた結果、脳磁計を使った検査で解析方法も改良し、今年度は30人(昨年度は27人)に異常が検出され、その割合(感度)が7割を超えたと説明。MRIを使って脳の体積や神経線維の解析も進めたという。
ただ、今後の課題として解析方法の改善や認定患者の検査数の確保も必要として、「感覚障害と運動失調を客観的に評価できるシステムの確立を、来年の秋までにめざしていきたい」と述べた。
小泉進次郎・前環境相は今年6月、患者・被害者団体とのオンラインによる懇談で、手法の開発について「来年の秋をめどに手法の開発を進めていくが、進捗状況の詳細については研究者から直接説明する機会を今年の秋までに設けたい」と述べていた。(奥正光)
「制度設計に誤り」患者団体など
国水研の研究をめぐり、多くの患者・被害者団体は、認定患者だけを対象としている点など「そもそも制度設計が間違っている」と批判的な立場だ。この日も、報告会に参加した団体側から「認定患者に偏った研究の結果が(被害の有無の)判定に使われるなら、結局、被害者の切り捨てにつながる」と疑問の声が上がった。
中村部長は報告会で、「認定患者の研究で(客観評価の)システムをまずは確立したい」と、これまでの見解を繰り返した。「手法のめどが立てば健康調査が始まるのか」と問われると、環境省の担当部署が決めることと答えた。
これに対し、水俣病不知火患者会の元島市朗事務局長は「どのような調査をめざすかという大目的に向けて研究を行うべきだ。目的がない研究に意味があるのか」とただした。
水俣病問題を担当する環境省特殊疾病対策室の担当者は取材に、「健康調査の開始時期、対象地域、規模などは未定。『開発された手法』によって検討することになる」と答えた。(奥村智司)
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