第4のキャリアとして、2020年4月に本格参入を果たした楽天モバイルだが、新規参入であるがゆえに、既存のキャリアと比べるとエリアには“穴”が目立った。一方で、サービスは全国区で展開している。このギャップを埋めているのが、KDDIローミングだ。同社はKDDIから800MHz帯のLTEをローミングで借り、エリアを補完。サービス開始当初から全国区のネットワークを提供することができた。
ただし、このローミングは時限的なもの。期間が2026年3月末までに定められている他、楽天モバイル自身のエリアが十分拡大した際には、両社が協議の上で打ち切ることもできる契約になっている。ローミングはコストもかさむため、楽天モバイルは2026年を待たず、エリア拡大に伴い、前倒しでローミングエリアを徐々に減らしていた。
楽天モバイルとKDDIは、そのローミングを10月1日から大幅に縮小する。楽天モバイルによると、KDDIローミングが終了する地域は39の都道府県に渡り、人口カバー率に換算すると7割程度になるという。逆に言えば、KDDIローミングのエリアは約3割に縮小するということだ。ここでは、同社の代表取締役副社長、矢澤俊介氏の話を踏まえながら、そのメリットや楽天モバイルの狙いを解説していきたい。
10月1日から加速する自社回線への切り替え、地下や屋内対応も進む
楽天モバイルは、KDDIローミングの提供エリアを順次、縮小している。2020年10月からは大阪府や奈良県で、2021年4月には千葉県、埼玉県、神奈川県といった首都圏を含む、2府13県でローミングの停止を始めた。切り替え対象地域になったからといって、いきなり全てのKDDIローミングが止まってしまうわけではないが、徐々にローミングが終了しているのは事実だ。
10月1日からは、上記に加えて、新たに北海道から沖縄まで、23の道県でローミングからの切り替えを始める。対象になった地域でも一部は2023年3月末までローミングを継続しているが、ローミングが中心になっている県は、残すところあと8つになった。岩手県、山形県、山梨県、和歌山県、島根県、高知県、長崎県、鹿児島県がこれに当たる。矢澤氏は、「人口カバー率で言うと全人口の約7割が楽天モバイルエリアのみになり、地域のカバレッジとしては結構な広さになった」と胸を張る。
ローミングを停止する条件は、「ある程度細かいエリアまでオンエアしていること。それが足りない8県は除いている」(同)という。ただし、この8県に関しては当面としながらも、「次の更新のタイミングは2022年3月なので、ここでは解除していけるよう、準備を進めている」という。この目標が達成できれば、2022年3月で47都道府県全てのローミングを終了することができる。KDDIとのローミング契約は2026年3末までだったことを踏まえると、大幅な前倒しと言っていいだろう。
ただし、停波の対象になった都道府県全てでKDDIローミングが利用できなくなるわけではない。上記はあくまで屋外局が中心で、「10月以降も、引き続き地下や屋内の商業施設、オフィスビルは(ネットワークを)お借りしているエリアがある」(同)。屋内のエリア化は、施設のオーナーなどとの個別交渉が必要になる上、カバーしなければならない場所の数も多く、屋外の基地局以上に設置には時間がかかる。
「延べ床面積が大きい商業施設やオフィスビルは順次屋内工事を進めているが、休館日や夜間しか工事ができず、かなり長い作業になる。こういうところではローミングを切らず、引き続きKDDIから電波をお借りする」(同)
一方で、こうした課題は楽天モバイル側も認識しており、「屋内や地下も、対策が順次進んでいる」(同)そうだ。象徴的な例では、10月に東京メトロの9割のエリアで、KDDIのローミングが終了するという。地下鉄は、通称でトンネル協会と呼ばれることもある移動通信基盤整備協会が一括してネットワークの敷設を行っているが、ここには楽天モバイルも加盟済み。駅のホームや改札を出た後まで、一気にエリア化が進んでいるという。また、半径30mほどをカバーするスモールセル基地局を1日300から500のペースで設置し、屋内のエリア化を急いでいる。
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楽天モバイルがローミングからの脱却を急ぐ理由
ただ、楽天モバイルの1.7GHz帯とKDDIの800MHz帯では電波特性が大きく異なるため、ローミングから自社エリアに切り替えると、思わぬ場所に空白地帯が生まれてしまう恐れもある。少し移動するだけでつながればいいが、自宅や店舗内など、長くとどまるような場所が圏外になってしまうと、ユーザーの利便性が大きく損なわれる。楽天モバイル側も、「今回ローミングを停止するエリアは、何度もチェックをかけ穴がないようにやろうとしているため、大きなホワイトスポットは基本的にはできないが、ゼロにはできない」(同)という認識だ。
そのため、楽天モバイルでは対象となる地域の契約者に対し、「事前にお電話をして、楽天回線のみになること伝えている」(同)。ローミングを停止したことで不都合があれば、MVNOの端末や小型アンテナの貸し出しなどを行っている。KDDIローミングが停止することのメリットを伝えた結果、「98%の方がポジティブ」(同)な反応を示しているという。2%のユーザーには、モバイルWi-Fiルーターの貸し出しなども含めて、柔軟に対応策を提示しているようだ。
では、楽天モバイルはなぜKDDIローミングの終了を急いでいるのか。1つ目の理由が、通信量の制限だ。詳細は後述するが、ユーザーがKDDIローミングをすると、楽天モバイルからKDDIへの支払いが発生する。ここが青天井になっているため、楽天モバイル側はKDDIローミング利用時の通信量を制限せざるを得ない。現状では、ローミング利用時の制限が5GBに設定されており、同社最大の特徴である「UN-LIMIT VI」の恩恵を受けづらくなる。行動する範囲が全てKDDIローミングのエリア内だと、事実上の5GBプランになり、中容量以上のデータ容量が必要なユーザーのニーズを満たすことができない。5GBプランだとすると、現状の2178円(税込み、以下同)は他社と比べても割高だ。
仮に楽天モバイルの自社回線エリアが広がっていても、KDDIローミングが周辺に残っていると、“5GBの壁”にぶつかりやすくなる。「KDDIからは800MHzのいわゆるプラチナバンドを(ローミングで)借りているが、楽天モバイルは1.7GHzなのでKDDI側の電波が強くなり、古い端末だとKDDIにつながってしまう」(同)ことがある。楽天モバイルが扱う端末には、自社のネットワークを優先する制御が入っているが、他キャリアから持ち込んだ端末でも同様の問題が起こりやすい。
端末側での制御はあくまで一時しのぎでしかなく、根本的な解決策は、やはり広いエリアをまとめて自社回線に切り替えることだ。裏を返せば、KDDIローミングを打ち切っても十分なほど、自社回線のエリアが充実してきたともいえる。矢澤氏によると、2021年8月末時点での人口カバー率は92.6%で、半導体不足によるエリア拡大の遅れも取り戻しつつある。約93%の人口カバー率達成には3万局の基地局が必要だったが、半導体が取り付けられずに電波を発射できない基地局も約1万局建設済みだ。この1万局が「年末にかけて入ってくる部品を順次つけていけばオンエアになる」(同)。KDDIローミングの7割を終了させるめどがついたというわけだ。
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かさむローミングコスト圧縮も狙い、契約者獲得に本腰を入れる可能性も
楽天モバイルが赤字を脱却するためにも、KDDIローミングの終了は急務だったといえる。先に述べたように、KDDIローミングは従量課金で設定されている。ユーザー向けの約款を見ると、1GBあたりの料金は約550円。KDDIへの支払額、つまり楽天モバイルにとってのコストも、この金額にかなり近い数値のようだ。
UN-LIMIT VIではKDDIローミング利用時のデータ容量は5GBに制限されているが、仮にユーザーがこれを使い切った場合、2750円程度のコストが楽天モバイルに発生する。一方で、ユーザーが支払う料金は2178円。1円の利益にならないどころか、使われれば使われるほど赤字が発生してしまう計算になる。同社CEOの三木谷浩史氏が、決算説明会で「かなりローミング費用が高い」とこぼしていたのもそのためだ。
実際、KDDIは楽天モバイルからのローミング収入を含んだ「モバイル通信料収入」と自社ユーザーからの収入のみを抜き出した「マルチブランド通信ARPU収入」を分けて開示しているが、その差額が徐々に膨らんでいる。2020年4月からの2021年度第1四半期は約108億円だったのに対し、直近の2022年度第1四半期では約330億円にまで拡大している。モバイル通信料収入には国際ローミングなども収入も含まれるが、コロナ禍で海外からの渡航者が大幅に減っている中でも差が広がっているのは、楽天モバイルが大半を占めているからだ。
ユーザー数が急増しているとはいえ、新規参入直後で売り上げも少ない楽天モバイルには、KDDIローミングの費用が重石になっていたことが分かる。自社回線の人口カバー率が96%に近づきつつある今、KDDIローミングは一刻も早く打ち切りたい――先に引用した三木谷氏の発言は、そんな本音が思わず漏れた一幕だったといえる。矢澤氏も、「人口カバー率で7割減るということは、かなり近い将来、ローミング費用が下がる」と期待をのぞかせる。
ローミング費用が下がれば、コスト面の問題で契約者獲得を抑える必要性は薄くなる。その意味で、10月1日からの大規模なKDDIローミングの終了は、楽天モバイルがアクセルを踏み始める号砲といえるかもしれない。一方で、大手3社は一通り4Gのエリア構築は終え、既に競争軸は5Gのエリアに移りつつある。特にKDDIやソフトバンクは、4Gから転用した周波数帯を積極的に活用していることもあり、エリアの広がり速い。2社は2022年3月までに、5Gの人口カバー率を90%まで引き上げる目標を掲げている。
楽天モバイルも「4Gの基地局にはほぼ全てに5Gを載せられる」(同)というが、現時点でのエリアは限定的だ。5Gは4Gよりも周波数帯がかなり高くなるため、同じ基地局を5G化しただけでは十分な広さのエリアにはなりづらい。今は“パケ詰まり”などの速度低下は顕在化していないが、ユーザーが増えてくれば5Gを含めてキャパシティーをどう確保するかも課題になりそうだ。
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