生活習慣病の発症リスクとなる非健康的な習慣が、幼少期から芽生え始めていることはよく知られている。その非健康的な習慣の1つに挙げられる「睡眠」について、新たな知見が報告された。幼児の睡眠時間を十分に確保するには、「早起き」であると同時に「早寝」も心がけると良いという。共立女子短期大学の中西朋子氏 、神奈川県立保健福祉大学の鈴木志保子氏 (当協会理事長)らの研究によるもの。
研究の背景:幼児期の睡眠習慣の大切さ
幼児期の睡眠習慣に関するこれまでの研究から、就寝時刻が遅い子どもは攻撃的な行動をとりやすいことや、就寝時刻が不規則な子どもは体調不良を訴えやすいこと、睡眠時間が9時間台と短い子どもは成長過程で肥満になりやすい傾向があることなどが報告されている。さらに日本は、世界でも睡眠時間が短いグループに属する国であることが報告されており、保護者のそのような睡眠習慣が子どもたちにも影響を及ぼすことも懸念される。
ただし、これらの報告の多くは、子どもたちの起床または就寝時刻、あるいは睡眠時間などのパラメーターと生活習慣等の関連を解析している。しかし実生活のリズムは、起床から就寝まで連続する時間の流れで構成されるため、睡眠についても単に起床・就寝時刻との関連ではなく、「睡眠パターン」として把握した上での検討も必要とされる。
このような観点から本研究では、保育所に就園している子どもたちの平日および休日の睡眠状況をクラスター化し、そのパターンと生活習慣との関連を検討した。
クラスター分析で睡眠パターンを分類
10施設、300名近くの幼児の保護者に調査
研究の対象は、ある中核市の公立保育所10施設に通っている4~6歳の幼児289名。性別は男児が50.2%で、年齢は4歳後半(4.7±0.1歳)が24.2%、5歳前半(5.2±0.1歳)が26.0%、5歳後半(5.7±0.1歳)が23.5%、6歳前半(6.2±0.1歳)が23.2%、6歳後半(6.7±0.1歳)が3.1%。
この子どもたちの保護者に対して、平日・休日の子どもの起床・就床時刻と生活習慣を自記式質問紙法で調査した。ここでいう「就床時刻」とは、子どもを寝かしつける時刻の意味である。生活習慣に関する質問項目のうち本研究では、睡眠に関連する項目として、朝食の欠食、20時以降の外出、就寝前3時間以内のカフェイン含有飲料の摂取という習慣の有無、および、子どもの寝かしつけ方を評価した。寝かしつけ方については、絵本を用いる、テレビを用いる、パソコンを用いる、スマートフォンを用いるという4つの方法について検討した。
「早起き型」「早寝型」「遅寝遅起き型」の3タイプが存在
子どもたちの睡眠習慣を平日と休日で比較すると、起床時刻・就床時刻ともに休日のほうが有意に遅かった。また、睡眠時間は平日が9:39±0:39時間、休日は10:32±0:45時間で、有意に休日のほうが長かった。
クラスター分析の結果、全体が以下の3群に分類された。
- 早起き型:
- 起床時刻が他群よりも有意に早い群。140名(48.4%)
- 早寝型:
- 就床時刻が他群よりも有意に早い群。93名(32.2%)
- 遅寝遅起き型:
- 起床・就床時刻が他群よりも有意に遅い群。56名(19.4%)
早寝型のみ、平日・休日ともに10時間以上の睡眠を確保
これら3群の睡眠時間を比較すると、早起き型の子どもは、平日が9:26±0:33時間、休日が9:59±0:30時間で、平日・休日のいずれも10時間に満たなかった。
一方、早寝型の子どもは、同順に10:08±0:36時間、11:08±0:27時間で、平日・休日のいずれも10時間以上の睡眠が確保されていた。遅寝遅起き型の子どもは、9:25±0:29時間、10:55±0:40時間で、休日のみ10時間以上の睡眠が確保されていた。
睡眠パターンと生活習慣との関連
前記3つの睡眠パターンと生活習慣の関連を検討すると、以下の項目について群間に有意差が認められた。
- 朝食の欠食が少ないのは、早起き型の子ども:
- 朝食の欠食ありの該当者率は平日・休日ともに、遅寝遅起き型、早寝型、早起き型の子どもの順で多かった。具体的な該当者率は、平日については、遅寝遅起き型18.2%、早寝型8.7%、早起き型6.4%、休日については同順に、19.6%、4.3%、3.6%。
- 20時以降の外出が少ないのは、早寝型の子ども:
- 20時以降の外出を「全くしない」の該当者率は、早寝型の子どもが最も多く(68.8%)、次いで早起き型(64.7%)であり、遅寝遅起き型が最も少なかった(44.6%)。
- 就寝前3時間以内のカフェイン含有飲料の摂取が少ないのは、早寝型の子ども:
- 就寝前3時間以内にカフェイン含有飲料を「ほとんど/全く飲まない」の該当者率は、早寝型の子どもが最も多く(95.7%)、次いで早起き型(86.4%)であり、遅寝遅起き型が最も少なかった(83.9%)。
- 寝かしつけるのにテレビを用いることが多いのは、遅寝遅起き型の子ども:
- 寝かしつけるのにテレビを用いるのが「毎日/ほぼ毎日」の該当者率は、遅寝遅起き型が最も多く(16.1%)、次いで早寝型(5.4%)であり、早起き型が最も少なかった(3.6%)。なお、寝かしつけるのに、絵本を用いる、パソコンを用いる、スマートフォンを用いるという方法に関しては、群間の有意差がなかった。
良い睡眠習慣と睡眠時間の確保には、早い時刻に寝るのが良い
幼児期は規則正しい生活リズムを形成するための重要な時期で、「早寝早起き朝ごはん」が良いと言われる。本研究においても、早起き型や早寝型は、朝食欠食率が低く、睡眠の質を低下させる懸念のあるテレビを用いた寝かしつけの実施率も低かった。このことから、著者らは「早起き型や早寝型の子どもは、規則正しい睡眠習慣が獲得されている可能性が高いと考えられる」と考察している。
他方、睡眠時間に着目すると、早寝型のみ平日・休日ともに10時間を超えており、早起き型と遅寝遅起き型はともに平日が9時間台で、かつ早起き型は休日の睡眠時間も9時間台だった。睡眠時間が9時間台の幼児は、中学1年時点で肥満である割合が高いことが報告されている。また、健康成人を対象にした観察研究では、起床後15~16時間後に眠気が出現することが示されている。
以上より著者らは、1都市での検討であることなどの研究上の限界点を挙げた上で「保育所に通っている幼児は、平日・休日の起床時刻だけではなく、就床時刻も早い時刻にすることが望ましいとわかった」と結論をまとめている。
文献情報
原題のタイトルは、「4~6歳の保育所児における平日・休日の睡眠パターンに関する研究」。〔神奈川県立保健福祉大学誌:human services 17(1),39-48,2020〕
原文はこちら(神奈川県立保健福祉大学機関リポジトリ)
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