ソニーモバイルが、SIMロックフリースマートフォンのラインアップを大幅に拡充する。これまでの同社は、大手キャリア経由での販売が中心で、「Xperia J1」や「Xperia Ace」などのSIMロックフリースマートフォンも、MVNOが取り扱っていた。これに対し、今回発売が決まった3機種は、ソニーストアはもちろん、家電量販店やECでの販売も予定。保証サービスなども拡充する。
発売されるのは、「Xperia 1」「Xperia 5」「Xperia 1 II」の3機種。いずれの端末も、SIMロックフリーでかつデュアルSIMに対応する。大手キャリアが取り扱ってきたため、端末そのものに目新しさはないが、Xperiaにとって大きな転換点になる可能性もある。そのインパクトを読み解いていきたい。
SIMフリーになって再登場するXperia1/5とXperia 1 II
ソニーモバイルがSIMロックフリーモデルとして発売するのは、2019年のフラグシップモデルであるXperia 1と、その小型版にあたるXperia 5、そして、初の5Gモデルとして5月にauから、6月にドコモから発売されたばかりのXperia 1 IIだ。Xperiaの不振に苦しんでいたソニーモバイルだが、2019年2月にスペイン・バルセロナで発表されたXperia 1でコンセプトを刷新。「好きを極めたい人々に想像を超えたエクスペリエンスを」というキャッチフレーズを掲げ、従来のXperia以上にとがった機能を詰め込むようになった。
例えば、Xperia 1は21:9の4K HDRに対応したディスプレイを搭載。ソニーで業務用モニターを手掛けるチームと連携を深め、クリエイターの意図を忠実に反映する「クリエイターモード」を搭載している。カメラについても、ソニーの一眼レフカメラ「α」シリーズでおなじみの「瞳AF」に対応した。その直接的な後継機にあたるXperia 1 IIでは、5Gに対応しながら、カメラに磨きをかけ、1/1.7型センサーや、デジタルカメラのように操作できる「Photography Pro」を採用している。SIMロックフリーで発売されるのは、このリニューアル以降のXperiaだ。
いずれの端末も、売りとなる機能はキャリア版と同じだが、SIMロックフリー向けに一部のスペックが強化されている。ストレージ(ROM)はその1つで、Xperia 1 IIは128GBから256GBに、残り2機種は64GBから128GBへと、それぞれ“倍増”している。また、Xperia 1 IIに関しては、メモリ(RAM)も8GBから12GBへと増強され、スペックに定評のある他社のハイエンドモデルと比べてもそん色ない数値になった。
キャリア版のXperiaは、各キャリアで利用することを前提に、周波数が最適化されているが、SIMロックフリーでは、回線の選択がユーザーに委ねられる。そのため、3機種とも3GやLTE、5Gの対応バンドを増やし、国内4キャリアでの利用が可能になっている。例えば、Xperia 1 IIの5Gは、ドコモ版がn78(3.7GHz帯)とn79(4.5GHz帯)の2つ、au版がn77とn78(いずれも3.7GHz帯)の2つにしか対応していなかったのに対し、SIMロックフリー版はn77、n78、n79の3バンドを網羅。LTEも同様に、4社の周波数をしっかりカバーしている。デュアルSIMで、複数キャリアを同時に使いたい人にとっては、うれしい仕様といえそうだ。
ただし、残念ながらXperia 1はFeliCaを搭載しておらず、おサイフケータイなどは利用できない。ワンセグ/フルセグも3機種ともに非対応で、こうした機能はキャリア版から削られた。市場想定価格はXperia 1 IIこそ12万4000円とキャリアモデルよりわずかに高いが、Xperia 1は7万9000円、Xperia 5は6万9000円(いずれも税別)と、2019年モデルの2機種はハイエンドモデルの中ではリーズナブルな設定になっている。
Xperia 1 Professional Editionの反響を踏まえ、SIMフリーモデルを拡大
ソニーモバイルは、これらのSIMロックフリーモデルを、「ソニーグループの持つあらゆるタッチポイントを使って展開する」という。ソニーのテレビやカメラ、オーディオを扱う家電量販店であれば、そのコーナーにXperiaを置き、連携して使えることや、機能に共通性があることを訴求する方針。スマートフォン売り場だけでなく、それぞれの分野に興味のあるユーザーに、Xperiaをアピールしていくというわけだ。
多数のショップを全国に抱えるキャリアは、販売力が高く、販路としては強力な一方で、メーカー自身の“色”を出しづらいのも事実だ。メーカーにとって、一次的な販売先はキャリアになるため、ユーザーの声をダイレクトに反映させるのも難しくなる。テレビやカメラ、オーディオなどの製品はキャリアが扱っていないため、これらと並べての販売もできない。数を取れる反面、メーカーの思い描くようなブランドイメージを築くのは難しい。リニューアルしたXperiaが、とがったユーザーをターゲットにしていることを踏まえると、SIMロックフリーでの投入は、むしろ自然なことといえそうだ。
ラインアップの拡大に踏み切った背景には、2019年10月に発売された「Xperia 1 Professional Edition」の反響がある。同モデルは、ディスプレイのホワイトバランスを映像制作現場で使われるマスターモニターに合わせ、個体ごとにチューニングした、いわば特別版の端末。価格も14万3000円(税別)と高かったが、ソニー製品のファンの心はしっかりつかんでいた。購入者のアンケートを見ると、60%以上が購入理由として「ソニーが好きだから」と答えている。だが、それ以上に多かったのが、「SIMロックフリーだから」という動機だ。実に8割の購入者が、SIMロックフリーであることに魅力を感じていた。
本格展開にあたって補償サービスも導入。こちらも、Xperia 1 Professional Edition購入者の声を反映させる形で、「Xperia ケアプラン」を用意した。料金(税別)は月額500円、年払いだと1000円割引の5000円になる。中身は、交換サービスと修理サービスの2本柱。前者は、メーカー保証でカバーできないときに交換機を受け取れるサービスで、Xperia 1 IIが1万円、Xperia 1/5が7000円。年2回までの利用が可能だ。後者の修理サービスは回数制限なく、修理費用が5000円に抑えられる。
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シェア奪還なるか、カギになるのがミドルレンジモデルの展開
日本ではAndroidスマートフォンのトップシェアを誇っていたソニーモバイルだが、海外では台頭する中国勢の追い上げを受け、苦戦が続いていた。構造改革でいたずらにシェアを追わない方針を打ち出し、販路を縮小。一方で日本でも、2016年に発売した「Xperia X」シリーズが振るわず、徐々にシェアを落としていた。こうした事情が重なり、2019年度通期での販売台数は320万台にまで減少している。ミドルレンジモデルやSIMロックフリースマートフォンの展開も遅れ、シャープだけでなく、Samsungにも抜かれ、シェア4位(MM総研調べ)に甘んじている。
SIMロックフリースマートフォンの投入は、こうした状況を抜け、反転攻勢をかけるための第一歩とみることができる。ソニーモバイルにとって手つかずの市場なだけに、SIMロックフリー投入ぶんはプラスになるはずだ。ただ、この3機種でシェアを変えるほど一気に販売台数が増えるということはないだろう。SIMロックフリー市場はもともと、キャリア市場に比べて小規模が小さいうえに、その大半が3万円前後のミドルレンジモデルだからだ。
唯一、Appleは比較的価格帯の高い端末だけで20.4%のシェア(MM総研調べ)を取れているが、これは例外とみていいだろう。iPhoneのブランド力や、Apple Storeの販売力、サポート体制があってこそで、Xperiaがここにキャッチアップするには課題も多い。最低限、キャリアモデルと発売時期をそろえ、ユーザーが双方を比較検討できるようにしていく必要がある。単純に開発リソースが不足しているだけなのか、キャリアモデルが売れなくなることへの配慮なのかは知るよしもないが、Xperia 1 IIに関してはSIMロックフリーモデルの発売が約半年遅く、ユーザーの不満につながりかねない。
同時に、シェアを上げるうえでは、主戦場ともいえるミドルレンジのスマートフォンも投入していく必要はありそうだ。特に今のSIMフリー市場は、ソニーモバイルにとってチャンスも多い。米国の制裁によって、HuaweiがGMS(Google Mobile Service)対応端末を投入できなくなっているからだ。制裁はさらに強化され、チップセットなど、部材の調達にも支障が出ている。
SIMフリー市場でシェア2位のASUSも、海外での方針変更を受け、ハイエンドモデルに集中している。2社合わせたシェアは28.8%と大きく、OPPOやXiaomiなどが、その穴を狙う。ハイエンドモデルに加え、「Xperia 10 II」など、魅力的なミドルレンジモデルを投入することを期待したい。
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