楽天モバイルへの投資が巨大な負担となっている楽天グループ。
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- 楽天の金融事業再編の狙いはモバイル事業を支えるためだと、スマホジャーナリストの石川温氏は指摘する。
- 楽天の有利子負債は、モバイル事業への投資などで1兆6379億円にまで膨らんでいるからだ。
- これを解消するには、楽天モバイルの1人あたり通信料を1年間で500円以上引き上げる必要があると石川氏は推測している。
楽天グループは2024年4月1日、傘下にある金融子会社を再編する協議を開始したと明らかにした。
銀行、証券、カードや保険業務を一体的に運営することで、AIによるデータ連係などを強化し、顧客サービスの改善につなげていく狙いがあるようだ。
ただ、そういった理由は「表向き」であり、やはり、2020年の新規参入以降、赤字が続き、グループ全体の足を引っ張っている携帯電話事業を支えるというのが再編の狙いだろう。
今回、再編の対象となるのは、すでに上場している楽天銀行を筆頭に楽天カードと楽天証券ホールディングス、さらに楽天インシュアランスホールディングスの4社だ。楽天インシュアランスホールディングスは「楽天生命保険」や「楽天損害保険」などの保険事業を担当する。
再編の具体的なカタチはこれから検討するようだが、再編後は上場を維持する楽天銀行をトップに3社がぶら下がる格好になりそうだ。
楽天グループにおける目下の懸念材料は大幅に膨らんだ有利子負債だ。2023年12月現在で1兆6379億円となっているが、その大半は携帯電話事業による基地局への設備投資だ。2024年には約3200億円、2025年には約4700億円の償還が迫る。
とりあえず、2024年中の償還目処は立っており、経営危機に陥ることはないとされる。三木谷浩史会長も「さまざまな形で銀行に協力やコミットメントも頂いている。全く問題ないと考えている」と胸を張る。
崖っぷちの楽天にとって、金融事業再編は起死回生の一手となるか。
提供:石川温さん
楽天経済圏を楽天モバイルユーザー優遇に改変
楽天グループが金融事業を再編し、経営的に安定することは、ユーザーにとってメリットだ。
ここ数年、楽天グループにおけるポイント付与に関して、明らかに「改悪」と呼ばれるようなルール変更が行われてきた。これは、携帯電話事業における「赤字」が影響を及ぼしているのは間違いない。今回のように金融事業を再編し、楽天グループ全体の経営が安定化していけば、当面はいまのポイントプログラムのルールが維持されていくと思われる。
直近では2023年12月から「SPU(スーパーポイントアッププログラム)」を改定。
これまで楽天経済圏のヘビーユーザーが貯まりやすいようなポイント付与率などを楽天モバイルの契約者を優遇する仕組みに切り替えた。
楽天モバイルではかつて顧客獲得の原動力になっていた「ゼロ円プラン」も廃止している。
これらの料金プランやポイントプログラムは、いずれもヘビーユーザーに使われると赤字の要因でしかないため、やむを得ず中身を改定。赤字の要因を切り捨てるとともに、黒字化に向けた施策を強化しているのだ。
こうしたポイントプログラムや現在のモバイルにおける料金プランを維持していくためにも、さらなる金融事業の安定化、黒字化は絶対条件だった。楽天ユーザーに逃げられず、囲い続けていくためには避けては通れない「金融事業の再編」だったわけだ。
もちろん、金融事業を楽天グループから距離を置き、ひとつにまとめておくことで、資金調達をしやすくなるという事情もあるだろう。特に「虎の子」とも言えるカード事業を上場させる、あるいは資金調達のために活用するというのは、次のシナリオとして当然、考えているはずだ。
ただ、あまり楽天経済圏との関連性が薄まってしまうようでは、ユーザーに対するメリットを与えづらくなってしまうのも事実だ。
「楽天市場」売却という悪夢のシナリオ
「auマネ活プラン」を提供するKDDIやauフィナンシャルホールディングスの関係者は
「我々のような通信事業と証券、保険が一体になって通信料金プランを提供できるのは、盤石な経営基盤があり、KDDIグループ全体がひとつになって動いているからこそ。その点、楽天銀行は上場し、株主が増えたことでハンドリングが難しくなってくるのではないか」
と見る。
実際、auマネ活プランでは、銀行や証券の口座を持つユーザーに対してポイントが付与されているが、この原資は通信サービスを提供するKDDI側が負担しているとされている。通信を手がけるKDDIに資金的な余裕があるからこそ実現できるプログラムなのだ。
その点、楽天グループでは楽天モバイルが資金的に赤字であるため、「楽天マネ活プラン」といったように、証券や銀行の口座を持つユーザーに対して、楽天モバイルがポイントを付与したり、金利を優遇したりといったプラン設計は「難しい」とKDDI関係者は見ている。
楽天グループとしては、金融事業を再編し、資金調達して当面の危機を乗り越えつつ、早期にモバイル事業を黒字化しなくてはならない。それこそ、失敗し社債の償還ができなくなれば、再編した金融部門をすべて手放し、どこかの銀行が救済。さらに「楽天市場」などEC事業を別の通信キャリアが買い取るという可能性もゼロではない。まさに「楽天経済圏崩壊」待ったなしなのだ。
楽天モバイルとしては年内中の単月黒字化を視野に入れている。
そのためには2024年中に800〜1000万契約を達成する必要がある。ここ最近、「最強プラン」などがヒットし、月間で20万件近い純増を達成。4月8日には650万契約となったと発表していることから、目標の850〜1000万は到達する見込みが立ってきた。
一方で懸念となるのがユーザー一人あたりの通信料収入(ARPU)だ。単月黒字化するには一人あたり月間2500〜3000円の通信料収入が必要という計画だ。
割安な法人契約が増加したことで、楽天モバイルのARPUは低下している。
出典:楽天
しかし、2023年第4四半期では一人あたり1986円しかなく、昨今、月間の通信料支払いが安価な法人契約が増えており、2023年第3四半期の2026円からすでに40円ほど減少してしまっている。
また、この春商戦では一人あたり100円を割り引く「最強家族プログラム」を始めており、さらなるARPU減少が懸念されている。
ドコモ、au、ソフトバンクの大手3社のARPUを見ると、この数年間、微増しているところもあれば微減しているところもあるなど、総じて、横ばい傾向が強い。つまり、1年間で500円以上も一気に上げられているキャリアは存在しないのだ。
果たして、大手3社が実現できていない「ARPU500円以上のアップ」を成功させられるか。まさに「ARPU向上」は楽天グループにとっての「アキレス腱」なのだ。
からの記事と詳細 ( 楽天モバイルユーザーは通信料を500円値上げされてしまうのか? 楽天・金融事業再編の背景 - Business Insider Japan )
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