コーヒーの香り漂う街かどでは親切行動が増える
コーヒーは世界で最も多く飲まれている飲料の1つである。その味と香りは世界の人々を魅了し、コーヒーのある暮らしは、豊かな日々を支えている。一方で、コーヒーが健康に良い可能性を示す研究が蓄積されてきている。身体的健康だけでなく、社会的健康、うつや認知症などの精神的健康との関連、さらにはメカニズムについての研究もなされている。
今回は、コーヒーの香り漂うまちに暮らし、毎日数杯のコーヒーを飲み、人と語らう機会を持ちながら暮らすと健康になるかもしれない――。そんな可能性がどこまで研究されているのかを紹介する。
街かどで飲まれることも多いコーヒーだが、コーヒーの香りと行動をテーマとした興味深い調査が行われた。落とし物をするなど、困った状況にある人が目の前に現れたとき、人が手助けをするかどうかを調べるという調査を実施したところ、コーヒーの香りが漂った状態では、無臭の場合よりも3倍も手助けをする親切行動が増えたというのだ(ネスレ調べ)。
カフェインやポリフェノールといった成分が多く含まれることも知られ、おいしさを求め、あるいはそのひとときを楽しむために飲まれることが多いコーヒーだが、飲まなくても香りだけで、あるいは、のんびりとコーヒーを味わっている心の余裕が、親切な人を増やすのかもしれない。では味や香りも含めたコーヒーの心理的、社会的な影響、身体的健康への影響、そして、そのメカニズムはどの程度明らかにされているのだろうか。
習慣的飲用者で社会的つながりが有意に多い
世界保健機関(WHO)は、健康には「身体的健康」「精神的健康」「社会的健康」の3つがあるとしている。コーヒーの習慣的飲用と循環器疾患や2型糖尿病リスクの低下との関連など身体的健康との関連や、コーヒー摂取者にはうつや自殺者が少ないという精神的な健康との関連を示唆する研究などのように、コーヒーの習慣的な飲用は、身体的健康、精神的健康に寄与する可能性が報告されている。それらに比べると社会的健康との関連についての研究は少ない。
筆者らは、高齢者を対象とした日本老年学的評価研究(Japan Gerontological Evaluation Study,JAGES)の調査データの一部を用いて、コーヒーの習慣的飲用者で社会的つながりが有意に多いという関連を見いだし、第75回日本栄養・食糧学会(2021,オンライン)*1において発表した(図1)。これは、緑茶ではこのような関連がみられなかったので、コーヒーを飲める機会や場所であるカフェや喫茶店などで社会的交流がなされていることを反映している可能性がある。このような報告は、世界にも先例がなく、より大規模な調査で追試を行っている。
カフェインの覚醒作用がもたらすプラスの側面
コーヒーのカフェインを眠気覚ましのために用いる人は多い。カフェインの利用は長距離ドライバーの交通事故を減らすという報告があり*2、これはカフェインによる覚醒作用がもたらすプラスの側面といえる。一方、厚生労働省の睡眠指針でも示されている通り、夜遅くのカフェイン入りコーヒーの摂取は寝つきを悪くし、睡眠を浅くするため推奨されない*3。
カフェインには、注意力などの認知機能の向上に効果があることが知られる*4。神経変性疾患であるパーキンソン病は、コーヒーあるいはカフェインの摂取によりリスク低下が認められ、また研究例が多いとはまだ言えないが、コーヒーの摂取は認知症リスクの低下と関連する可能性も報告されている*5。
日本食の頻度が高い食事習慣が認知症リスク低下と関連することを示した日本人を対象とした調査では、日本食+コーヒーというパターンがリスク低下に寄与する可能性が示唆されている*6。またコーヒー摂取は、うつ*7や自殺*8リスク低下と関連することを複数の報告が示している(図2)。
このように、コーヒー摂取の精神的健康への寄与は注目すべき領域であり、カフェインの脳神経保護作用や、注意力の向上や覚醒作用による日中の活動的な生活への貢献などが、その機序として寄与している可能性が考えられている。
からの記事と詳細 ( 第9回 コーヒー好きの住民に健康な人が多いのは本当か? - 日経BP )
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