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Tuesday, December 20, 2022

認知症 定期的な「脳の健康チェック」で早期発見を - 読売新聞オンライン

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 少子高齢化の進行により、2030年には約7000万人の労働需要に対し約6400万人の供給しか見込めず、このままでは労働力が約1割不足するとも予測されている。

 しかもこの労働力需給ギャップは、人口構造上は30年以降もさらに悪化していくと言われている。この危機的な予想の解決策としてしばしば挙げられるのが、「女性の勤務時間の拡大」「健康な高齢者の労働参加の拡大」である。

 しかしながら、この「高齢者の労働参加」において大きな壁となりつつあるのが認知症患者の増大である。2012年には認知症高齢者数が462万人と、65歳以上の高齢者の約7人に1人(有病率15.0%)であったのに対し、25年には高齢者の約5人に1人(有病率20.0%)が認知症となるとの予測もある。その場合、国民全体では約700万人、国民の17人に1人が認知症になるということになる。認知症患者の増大は高齢者の社会参加において、高齢者本人だけでなく、その家族の負担も含めて労働市場の供給の大きな障害となっていくと予想されている。

 認知症患者の増大に伴う問題は、労働市場への影響のようなすぐに想像できる問題だけではない。現在の社会は「認知症患者が当たり前に存在すること」を前提とした社会設計がされているわけではなく、「認知症患者が700万人(将来的にはそれ以上)存在する社会」がうまく機能するかは未知数である。

 例えば、認知症患者の保有する金融資産額は15年度時点では127兆円であったのに対し、30年度時点では215兆円に達するとも予測されている。これは個人金融資産のじつに1割に達するボリュームである。現行の制度では、銀行や証券会社の口座は本人の意思確認が難しくなると凍結されてしまうため、認知症患者は預金を引き出すことができない。介護サービス費用等への充当が難しくなるなど個人の問題はもちろん、金融資産が経済活動に回らなくなる部分が増えて投資低迷や景気後退を招くシナリオも考えられるのだ。

 これらの社会課題の解消には、認知症の有無にかかわらず、「高齢者が健康で自立し、安全な生活を送ることのできる社会」が求められる。高齢者の生活、健康および福祉の向上を目的とする革新的な解決策を創出し、それらを社会に実装するための取り組みを進めていく必要がある。

 また、認知症は誰でもなりうることから、認知症への理解を深め、認知症になっても希望を持って日常生活を過ごせる社会を創っていくことも重要となろう。

 認知症とは、脳の病気や障害など様々な原因により、認知機能が低下し、日常生活全般に支障が出てくる状態をいう。認知症は症状を表しているので、実際の病因としては100以上の種類がある。

 様々な病因の中で最も有名なのがアルツハイマー型認知症だ。認知症の中で最も多く、日本の高齢認知症患者の病因の3分の2を占めるという調査もある。アルツハイマー型認知症は脳神経が変性して脳の一部が 萎縮(いしゅく) していく過程で起きる認知症で、もの忘れから発症することが多く、年単位のように比較的ゆっくりと進行することが多い。

 次いで多いのが、脳 梗塞(こうそく) や脳出血などの脳血管障害による血管性認知症。障害に侵された脳の部位によって症状が異なるため、一部の認知機能は保たれている「まだら認知症」が特徴で、ゆっくり進行することもあれば、階段状に急速に進む場合もある。

 この2つにレビー小体型認知症と前頭側頭型認知症を加えた4大認知症で病因のおよそ9割以上を占める。そして4大認知症のうち、血管性認知症を除いた3種類は神経の病変である。脳や脊髄にある特定の神経細胞が徐々に侵され、脱落していく病気(神経変性疾患)だ。神経細胞は基本的に再生しないことから、大半の認知症については投薬や治療で完全に回復することは望めず、認知症が寛解できる率は血管性認知症を中心に約5%程度とされている。

 神経変性疾患に属する大半の認知症は完治が望めないとされるが、アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症には、神経細胞に作用して症状の進行を遅らせる薬が存在している。生活習慣の見直しや認知機能のトレーニングも認知機能の低下を遅らせる効果が期待できると言われている。完治が望めない以上、「いかに早期に治療や投薬を始められるか」が最も有効な治療の鍵なのである。

 さらに、認知症の手前の状態である軽度認知障害(MCI=Mild Cognitive Impairment)と呼ばれる段階であれば、適切な対策や治療を行うことで認知症の発症を遅らせられる、または発症前の状態で進行をほぼ停止させられる可能性がある。

 MCIの段階、または認知症の初期で発見するためには、本人、家族、企業など社会全体が認知症に対する意識を高め、認知機能の変化に気づくことができる環境を整えることが非常に重要である。

 「早期発見が重要」と言っても、認知症のような患者数が数百万人におよび、その候補者は数千万人に及ぶ病気において、例えば「65歳以上の全員に年に1回、医学的検査を行う」という対策は現実的ではない。

 「認知症の疑い」を検査するためには、現在主に神経心理学的検査が用いられている。これは脳の損傷や認知症等によって生じた知能、記憶、言語等の高次脳機能の障害を評価するための質問―回答形式の検査で、高齢者の運転免許更新に用いられるテストなども神経心理学的検査の一種になる。

 実際の診断においては、この神経心理学的検査の他、MRI画像検査、血液検査などのバイオマーカー検査、医師の問診等を組み合わせて総合的に行われる。これらは当然ながら専門の医療機関でなければ実施できず、非常に手間と費用がかかる。このような検査を「65歳以上の全員に年1回」実施することは、いくら早期発見につながる確実な対策であっても、実現はほぼ不可能だろう。

 そこで、多少精度が低くても簡便な検査で医学的検査をある程度まで代替できないか、という発想で行われているのが、認知症の疑いが強いかそうでないかを判断する「スクリーニング(ふるい分け)としての検査」である。神経心理学的検査には十分な研究とデータの蓄積があり、これをなるべく簡便に行えるよう工夫されたスクリーニング検査手法が存在する。代表的な検査としては「改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)」や「日本版 Mini-Mental State Examination(MMSE-J)」があり、多くの臨床場面で利用されている。これらのスクリーニングには高い信頼性と実績があるが、それでも〈1〉対面方式で30分といった時間を要する〈2〉軽度あるいは初期段階の症例に対する感度が低くなる〈3〉一定の訓練を受けた実施者でなくては結果が不正確になりがち――などの課題があった。

 これら既存のスクリーニング検査の課題を解決し、誰もが簡単に認知機能の変化に気づくことができる手法として、NTTコミュニケーションズは人口知能(AI)を活用した電話検査システムを開発。「脳の健康チェックフリーダイヤル」と名付け、2022年9月21日より無償トライアルを開始した。日本テクトシステムズ社の認知機能みまもりAI「ONSEI」のアルゴリズムを利用して、時間見当識の質問(西暦で何年何月何日何曜日ですか?)に対して利用者が発話した数秒の音声および年齢から、認知機能に変化があるかどうかを判定する。「ONSEI」は、1008の音声特徴量及び3種類の識別アルゴリズムの組み合わせを解析することで生み出されたAIで、軽度認知症群に対して93%の正分類率で判定することができるとされている。

 フリーダイヤル(0120-468-354)に電話をかけ、自動音声と通話するだけで1分程度の極めて短い時間で、既存の認知症スクリーニング検査と同等もしくはそれ以上の精度で判定できる。また、高齢者でも使い慣れた「電話」を利用しているため、誰もが日々の生活の中で簡単に認知機能のチェックを実施できる。

 「脳の健康チェックフリーダイヤル」は、開始約1か月で40万もの利用があり、簡易に認知機能のチェックができるサービスへのニーズが多いこと、高齢者を中心に社会全体の認知症への関心が高いことがわかった。

 トライアルは2022年度末までを予定しているが、次のステップではこの結果を基に、パートナー企業と連携して利用者の生活、健康が向上するサービスを提供していく考えである。

 具体的には、介護施設やスポーツジム、自治体などと連携することで、利用者への適切なケアの提供を促し、認知機能低下の予防に役立ててもらう。また、運輸、建設業界などと連携してアルコールチェックのように業務開始前に認知症スクリーニングを実施すれば、運転や作業の安全性の向上が期待できよう。

 金融機関での活用についても検討を進めている。高齢者を対象に、ダイレクトバンキングやコールセンターなど顧客との接点で認知症スクリーニングを定期的に実施することで、認知機能の低下前に家族信託や成年後見制度など適切な資産管理につなげることも可能だ。

 一方で、サービス機能を拡充する必要もある。

 脳の健康チェックフリーダイヤルは、軽度認知症か否かをスクリーニングするアルゴリズムを採用しているが、認知症の一層の早期発見、早期治療を促していくためにはMCIの段階でのスクリーニングを可能にする必要がある。技術パートナーとの共同研究を行い、認知機能低下の早期発見のアルゴリズムを検討していく。

 また、過去の結果を参照したり、定期的な再チェックを促したりする機能を備えることで、認知症に対する意識を高め、認知機能の変化に早期に気づくことができるようになるはずだ。社会全体でこのような取り組みを進めることが重要であり、「定期的な脳の健康チェック」を誰もが手軽に行えるシステムの早期実現を目指す。

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