◆「食事」野菜から 「運動」ウオーキング 「睡眠」笑顔で
歴代3首相の特別機、湾岸戦争直前のイラクからの邦人救出機…。日本航空の機長として幾多の歴史的ミッションを果たし「グレートキャプテン」と称された小林宏之さん(76)には別の勲章もある。42年間のパイロット人生で病欠なし。「機長の『健康術』」の著作もあり、今も維持し続ける健康の秘訣(ひけつ)について聞いた。 (聞き手・稲熊均)
映画にもなった「ハドソン川の奇跡」という米航空機の生還劇があります。この不時着水があった時、航空評論家として機長と管制官のやりとりを分析していましたが、着目したのは機長の口調です。ゆっくり落ち着いて話している。
私も現役時代(機体を軽くするためなどに)かなりの量の燃料を捨て、緊急着陸するトラブルは何度か経験していますが、アラームが出た段階で「さあ(どんな故障か)チェックを始めるか」とあえてゆったり副操縦士に話しかけました。非常事態では、まず自分のコントロールが重要です。慌てず、手順通り、訓練通りに対応する。そのために重要なことを突き詰めれば、やはり心と体の健康です。
機長には半年に一度「航空身体検査」があります。各数値とも一般の健康診断より厳しく、一つでも落とすと不合格になり、改善するまでフライトできません。三十代の時、血糖値が高くなり、検査は合格したものの「このままでは飛べなくなる」と危機感を抱き、健康管理の方法を考えました。
私はこれを「自分との約束」と呼んでいます。健康は長きにわたり管理していくものです。無理なことは避け、できることを整理して、必ず守ると決めました。だから誰でもできるような生活習慣ばかりです。
まず食事は食べ方です。よく噛(か)むこと、そして野菜類から食べ始め、魚や肉、最後に麺やご飯の炭水化物で終える。これによって肥満や血糖値の上昇が抑えられると指導されたからです。食事の中身は農林水産省の「食事バランスガイド」などを参考にして栄養の偏りを避けています。
運動は一時間ほどのウオーキングを毎朝欠かしません。これに腕立て伏せやスクワットを加えます。この程度でも筋力、体重、体調の維持につながります。朝のウオーキングは睡眠にも効果があります。朝日をたっぷり浴びることで体内時計が整えられ、精神の安定物質も生み出すといわれます。パイロットは時差により睡眠が不順になりやすく、私は海外でもウオーキングで体を適度に疲れさせ眠りやすくさせるなど工夫してきました。
睡眠は心の健康とも密接に関わり合います。気に病んでいることなどを考えると寝つきにくくなる。就寝前には、そうしたことは脳から遮断し、その日を無事すごせたことに感謝し笑顔で横になるよう習慣づけました。気休めと思われるかもしれませんが、心理的コントロールは睡眠に限らず、ストレス軽減、ひいては心の健康にとって重要な「約束事」として守ってきました。
◆プラス思考で「興味・感動・感謝」
プラス思考という言葉がありますが、筋肉同様に鍛え、習慣化することで脳に染み付きます。不平、不満、不安ばかりにとらわれれば、マイナス思考に陥りますが、つらいことでも「乗り越えれば楽しいことがある」「自分を鍛えてくれる」と常に意識して切り替えます。作り笑顔でも脳を明るく前向きに導く効果があるといわれますが、同じメカニズムが効くはずです。
私の健康管理は、パイロットとしての危機管理を原点として続けてきたものです。機長の仕事は心配や不安を挙げればキリがありませんが、お客さまにはそれを一切感じさせないようにして、フライトを無事終えるたびに大きな喜びを感じることができました。
人生を充実させるには「興味、感動、感謝」の「3K」が不可欠と考えます。仕事は3Kを満たしてくれるものであり、そのために健康管理という「自分との約束」を守ることができました。パイロット引退後も続けられる約束ですから、健康を維持し、新たな仕事や趣味で3Kを味わうことができていると思います。
<こばやし・ひろゆき> 1946年、愛知県生まれ。68年、日本航空に入社し、35歳で機長に昇格。飛行技術室長や運航本部副本部長を歴任。日航の全ての国際路線を飛んだ唯一の機長で、2010年に引退。退職後は国土交通省の交通政策審議会委員や日本航空機操縦士協会副会長を務めた。著書に「機長の『集中術』」など。
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