気持ちが安らぐ「匂い」か、それとも不快な「臭い」か-。自分にとっては心地よい香りも、人によっては苦痛でしかないこともある。この「におい」を醸し出す人工香料が、好き嫌いのレベルを超えて健康上の問題に至ることを知っておきたい。
柔軟剤や洗剤、芳香剤、制汗剤、整髪料などのにおいに起因する体調不良は「香害」と呼ばれている。呼吸器障害のほか、頭痛やめまい、皮膚障害が主な具体的症状だ。微量の化学物質で不定愁訴が起きる「化学物質過敏症」の一因とも指摘されている。
国民生活センター(東京)の「全国消費生活情報ネットワーク・システム」に寄せられた柔軟剤のにおいに関する相談は2008年度、14件にとどまっていた。
部屋干しや汗のにおいを抑えるため微香タイプが主流だったが、2000年代後半から香りの強い海外製がブームになり、芳香性も重視した商品が増えた。店頭の品ぞろえやテレビCMで実感する人も多いはずだ。
購買動向の変化と比例するように、「柔軟剤のにおいがきつく頭が痛くなる」といった相談は13年以降、顕著になったという。14年4月~20年1月の集計で928件あり、うち594件は危害(けが、病気などの疾病を受けたとする)情報だった。
危害の申告は、30~60代の女性が78%に上ったのが特徴。月別に見ると、夏場の6~9月に比較的多く寄せられた。発生場所は「家庭」が81%を占めた。
においの感受性には個人差があり、化学物質と健康被害の因果関係を証明するのも難しい。見過ごせない数字にもかかわらず、個人の体質と捉えられがちな側面もあり、行政、特に国の香害への理解、対策は遅れている。
市町村の啓発活動は消費者団体や環境保護グループなどの声を受けて18、19年ごろに始まり、ポスターや自治体のサイトで周知されるようになった。8月には地方議員を中心に「香害をなくす議員の会」が発足した。被害の実態を深掘りし、改善の推進力となることを期待したい。
一方、各種関係機関の要請に基づき、消費者庁や厚生労働省など5省庁が啓発ポスターを作成したのが1年前の21年9月。学校や交通機関をはじめ、公共の場での香害も顕在化しつつある。省庁横断的な対応は必須だろう。
香りを訴求した製品を扱う企業は、商品パッケージや自社のサイトで香りの強さの目安を表示したり、消費者に適量使用を促したりしている。製造者としての責任を鑑み、より分かりやすい表示、注意喚起を求めたい。
化学物質は身の回りにあふれている。言い換えれば、化学物質過敏症の発症リスクは誰にでもある。消費者は商品購入時、こうした点にも目を向ける必要がある。
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からの記事と詳細 ( においの健康被害 「香害」抑制へ周囲に配慮を 社説(9/5) - 河北新報オンライン )
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