コロナ禍で大きく需要が高まったもののひとつが、自身のスマートフォンから飲食店などに注文することができる「モバイルオーダー」サービスだ。
飲食店での「モバイルオーダー」とは、下記2種類のサービスを指す。
1.自身のスマートフォンから注文、決済し、飲食店の店頭で受け取る「テイクアウトのモバイルオーダー」
2.飲食店での店内飲食の際に、QRコードを読み取って、スマートフォンからオーダーする「イートインのモバイルオーダー」
「自身のスマホから注文できる」という点でUber Eatsなどの「デリバリー」サービスも一緒にされがちだが、そこは明確に区別しておく。
最近ではキャッシュレス決済のみならず、モバイルオーダーでの決済に特化した店舗も登場し、今後ますます飲食店におけるDX(デジタル・トランスフォーメーション)が広がっていくことが予想される。
一方で、コロナ禍の“非接触”という点で利用者の抵抗感の壁を一気に突破した感のある「モバイルオーダー」だが、2013年に国内初のスマートフォン向けモバイルオーダーサービスを提供した、株式会社Showcase Gigの創業者で取締役の新田剛史さんは、モバイルオーダーは、今後もっと伸張する可能性があると言う。
そこで「モバイルオーダー」のメリットと今後の展望について、テイクアウトとイートインの両面から、新田さんに教えてもらった。
行列しない、ゆっくり選べるテイクアウトの「モバイルオーダー」
店舗のWEBサイトやアプリから、事前にテイクアウトしたい商品を選び、決済まで済ませ、店頭でピックアップだけを行うサービスだ。混んでいる時間帯でも、スマートに商品を受け取ることができるため、店頭で待つ時間が少なくて済む。
「テイクアウトのモバイルオーダーは、事前決済することで、レジ前がすっきりしますし、行列がなくなります。
いざ、レジで対人で注文すると、急いで選んでしまいがちですが、事前にスマートフォンからオーダーすることで、焦らずにゆっくり選べるというメリットもありますね。
これはお客さんにとっても良いことですし、店舗にとっては、ゆっくり選んでもらうことで客単価が上がるということが、今までの実績でもわかっています。
特にテイクアウトのほうではファミリーのニーズに対応できると、客単価はさらに一気に上がります」(新田さん)
「店員さんを呼んでも来ない」がなくなるイートインの「モバイルオーダー」
店内飲食の際に、2次元バーコードなどを客自身のスマートフォンで読み取り、そこでオーダーを済ませる。店員はオーダーを受けたら、出来上がった料理を運ぶだけでいい。
「店員がオーダーのために呼ばれないので、確実にひと往復分減らすことができ、サーブだけに集中できるのが圧倒的にいい点です。口頭のオーダーでは、聞き間違いや打ち間違いがけっこう多く発生しています。それがなくなるので、食品ロスの削減にもつながります。お客さんから催促されて料理などは持って行き直したとしても、間違った伝票の打ち直しまではできていない場合も多いのです。
また、メニューをゆっくり見られることで、店内飲食の場合でも単価が上がることがわかっています。混んでいる時間帯や人気の店舗だと、店員さんを呼んでもなかなか来なかったりするので『もういいです、会計して店を出よう』となりがち。
でも呼び止めることなく注文できることで、客単価が上がったり、提供も早くなるので回転数が上がります。その他、メニューでその食材の生産背景を伝えたり、ブランディングすることも可能です」(新田さん)
コロナ禍を経て、今後の「モバイルオーダー」はどうなる?
メリットだらけに感じる「モバイルオーダー」。今後はどういった発展をみせるだろうか。
新田さんは「第七波が到来していますが、メニューを多言語対応できるモバイルオーダーは、インバウントの回復とともに波が来ると思う」と考えている。
モバイルオーダーのプラットフォームを提供する会社はコロナ禍に数十社が立ち上がったという。
「インフラは、だいたい会社が絞り込まれていくものなので、これから統廃合が進むのかなと予測しています。
一方で、店内飲食のモバイルオーダーは、メニューブックとしての表現にまだまだ可能性がある。システムとしての提供ではなく、たとえばアナログなら布で仕立てたメニューブックのように、リッチ感のあるデジタルメニューなど、そういう表現の部分を専門とする会社が出てきてもいいですよね。」(新田さん)
今後、より私たちの生活に深く浸透してきそうな「モバイルオーダー」。今回お話を聞いた新田さんの会社、Showcase Gigが提供するモバイルオーダーシステムは、吉野家や丸亀製麺、かつやなどに採用されており、圧倒的なシェアを誇る。
顧客は企業であり、ユーザーではないことから一般には広く知られていないが、ITベンチャーバブルが崩壊した後である2012年に創業した同社が、なぜそこまでの地位を得ることができたのか?次の記事で深堀りしていく。
取材・文/安念美和子
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