「ワイヤレスジャパン 2022」の初日となる5月25日、楽天モバイルの執行役員兼技術本部長である内田信行氏が基調講演に登壇。楽天モバイルの現状に加え、米AST SpaceMobileと進めている低軌道衛星を活用した通信サービスの進捗(しんちょく)や、Beyond 5Gに向けた研究開発などについても説明した。
4Gは4年前倒しで整備、今後は5Gも拡大へ
内田氏はまず、楽天モバイルのサービス開始から現在に至るまでの動向について改めて説明。同社はコアネットワークだけでなく、無線アクセスネットワーク(RAN)にも汎用(はんよう)のサーバとソフトウェアを用いて構築した完全仮想化ネットワークに力を入れているが、もう1つ力を入れてきたのが4Gの基地局整備である。
楽天モバイルは当初計画の4年前倒しで人口カバー率96%を達成しており、2022年4月末時点で屋外の基地局が4.4万に到達。人口カバー率も97.2%に達し、今後は人口カバー率99.9%を目指すと内田氏は話すが、同社に免許が割り当てられている1.7GHz帯はローバンド、いわゆるプラチナバンドなどと比べ障害物に弱い。そのため同社では屋内カバー強化のためフェムトセル「Rakuten Casa」の設置を積極化しており、その設置数は2022年3月時点で8万台に上る。
ネットワークの充実により、自社エリア内であればデータ通信が使い放題になるという料金プランの特徴がより生かされ、通信量は順調に増加。MVNOと合わせた契約数が550万に到達するなど、顧客からも高い評価を得ているというが、楽天グループのサービス利用者に占める楽天モバイルユーザーの割合は11%程度とのこと。「残りの90%近くは(楽天モバイルを)使っていないが、それだけ使ってもらえる機会があることだと思っている」と、内田氏は顧客拡大に向けて意欲を見せている。
また、楽天モバイルは5Gのエリアも拡大を進めており、5Gの基地局数は2022年4月時点で1万2544局に達しているとのこと。ただ岸田文雄政権の「デジタル田園都市構想」で5Gの基地局整備加速の要請を受けていることから、「従来のプランから前倒しで建設を加速していきたい」と内田氏。
もっとも内田氏は、「いま5Gで最も使われているのはスピードテスト」とも話しており、利用を広げるにはユースケースの開拓が欠かせないとしている。そこで楽天モバイルは、同じ楽天グループ傘下のヴィッセル神戸や東北楽天ゴールデンイーグルスなどと連携し、ユースケース開拓も進めている。現状はまだPoC(概念実証)ベースのものが多く、実際にユーザーからお金を支払ってもらうという形にまでは至っていないというが、さまざまなパートナーと連携しながら今後もユースケース開拓を進めていきたいとしている。
Beyond 5Gに向けた研究や海外展開の現状は
内田氏は続いて、Beyond 5Gに向けた研究開発について説明。同社はBeyond 5Gに向け、大きく7つの分野にフォーカスして研究開発を実施しているそうで、実際にNICT(情報通信研究機構)の「Beyond 5G研究開発促進事業」には3つ、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「ポスト5G研究開発事業」にも3つの事業が採択されており、それぞれ大学などと共同で研究開発を進めているという。
内田氏はその中から、NEDOで採択され東京工業大学らと取り組みを進めている、ネットワークスライシングを用いた侵入者検知システムの事例をビデオも交えて紹介している。これはセキュリティカメラをキャンパス内に設置して不法侵入者を監視するものだが、通常高い解像度のカメラ映像を流し続けてしまえば、通信トラフィックとネットワーク利用コストが大きく負担となってしまうことから、ジオフェンスを設け、その中に人がいないときは低解像度で配信し、いるときだけ高解像度で映像を配信するよう、自動で帯域を広げる仕組みの研究開発を進めている。
続いて内田氏は、楽天シンフォニーによる海外展開ついて説明。楽天シンフォニーは日本で2年間かけて築いた仮想化技術やオープン化技術を、クラウドサービスのAWS(Amazon Web Services)のようにプラットフォームとして海外の顧客に提供するべく子会社として立ち上げたもの。当初は50人程度の規模だったというが、ネットワーク仮想化の技術などを持つ企業を相次いで買収した結果、3500人が所属する規模にまで拡大しているという。
現在は8か国に拠点を置き、見込み客は123に上るというが、楽天シンフォニーのプラットフォームを包括的に導入できるのは独1&1のような新興の事業者に限られる。そうした事業者には包括での導入を交渉しているというが、既に他社の設備を導入している既存の事業者に対しては、全面的な導入となるとハードルが高いことから、一部のソリューションを提供することも進めているとのことだ。
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スペースモバイル計画は今夏に実験を開始
最後に内田氏は、楽天グループが出資する米AST SpaceMobileと進めている、低軌道衛星を活用した「スペースモバイル計画」の現状について説明。低軌道衛星を活用した通信サービスにはいくつかの企業が取り組んでいるが、それらの多くが専用のターミナルを地上に設置し、そこから別途Wi-Fiなどで通信する必要があるのに対し、AST SpaceMobileでは低軌道衛星からLTEの電波を直接射出し、地上のスマートフォンと直接通信できるのが特徴となる。
計画では150程度の低軌道衛星を打ち上げ、日本では1.7GHz帯を用いてスマートフォンと通信する一方、Q/Vバンド(40〜50GHz)の割り当てを受けて、日本では3箇所くらい設置を予定しているという地上のゲートウェイと接続、そこから楽天モバイルのコアネットワークと接続する形になるという。なお衛星のサイズは10×10mというかなりの大きさで、そのままでは打ち上げられないことから、打ち上げ後に傘のように開いて利用する構造を取り入れているそうだ。
これが実現できれば人口カバー率99%を超えたさらにその先、まだエリアカバーがなされていない国土の残り30〜40%もエリア化できるというが、気になるのは低軌道衛星の進捗状況だ。内田氏は今回の講演で、「先日米国に行って確認した」という現在の状況について説明、試験衛星の発射に向けた準備が現在進められており、2022年夏には実験が始まるとのこと。日本でも北海道での実験が予定されており、技術の有用性が確認できたら早い段階で商用化したいと同氏は話している。
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