2021年は“料金値下げ”がかつてないほど注目された1年だった。中でも話題を集めたのは、2020年12月に発表されていたドコモのahamoだ。20GBの中容量ながら、オンラインに特化することで2970円(税込み、以下同)の料金を実現。他社の対抗プランに再対抗しつつ、税込みで3000円未満に抑えるために行ったサービス開始前の値下げも、ahamoの注目度を高めることに貢献した。一方でKDDIはpovo、ソフトバンクはLINEMOを新たに立ち上げ、ドコモに対抗。KDDIはpovoを9月にpovo2.0に刷新、ソフトバンクは7月にLINEMOのミニプランを導入するなど、いったんスタートした料金プランも目まぐるしく改定された。
オンライン専用プランの陰に隠れてやや印象は薄くなっていたが、ユーザー獲得ではKDDIのUQ mobileや、ソフトバンクのY!mobileが健闘した。オンライン専用プランは、店頭でのサポートが受けられないため、利用のハードルはやや高くなる。UQ mobileやY!mobileは、従来通りのサポートを提供しながら低料金でサービスを行っているのが人気の秘密だ。特に、UQ mobileはauでんき、UQでんきや固定回線とのセット割で、3GBプランが990円になるなど、オンライン専用プラン顔負けの安さでユーザーの支持を集めている。
オンライン専用プランやサブブランドに押され、第4のキャリアとして2020年に本格参入した楽天モバイルも、料金プランを改定した。1GB以下が0円になる「Rakuten UN-LIMIT VI」はユーザーからも好評で、ユーザー数は順調に拡大している。こうした動きに対抗すべく、先に挙げたpovo2.0は基本料を0円に設定。格安を売りにしていたMVNOも、相次いで料金を値下げし、低容量の領域を強化した。ここでは、MMO、MVNOを巻き込んだ値下げ合戦が繰り広げられた2021年を振り返りつつ、2022年以降のモバイル市場を展望していきたい。
ahamoをきっかけに動き出した料金値下げ、povoやLINEMOは料金改定も
菅義偉前首相や総務省が携帯電話の値下げを要請したのは、2020年のこと。その引き金を最初に引いたのは、ドコモだった。同社は2020年12月にオンライン専用プランのahamoを発表。2月には料金を3278円から2970円に値下げした。開始前の料金プランが改定されるのは異例のことだ。
発表当初はドコモ内からのプラン変更でもMNPやSIMカードの交換が必要になる“サブブランド的な仕様”だったが、こうした手続きもサービス開始前に改められた。ファミリー割引の人数にカウントされるようになったり、継続契約年数を引き継げるようになったりと、2020年12月の発表から、徐々にメインブランドとして必要なスペックを満たしていった印象を受ける。
異例ともいえるサービスイン前の料金改定に踏み切った理由は2つあった。1つは競争が激化し、他社がオンライン専用プランで対抗してきたため。もう1つは総額表示で3000円を下回るためだ。動機として大きいのは、前者の他社対抗だろう。
時系列で見ていくと、1月にKDDIがpovo(現・povo1.0)を発表、2月にはソフトバンクがLINEMOを正式発表している。いずれのサービスも、ahamoがセットにしていた5分間の準音声通話定額を外し、当初のahamoより安い2728円を実現した。対するドコモは、5分間の音声通話定額を付けたまま値下げすることで、通話料を含めた割安感を訴求したというわけだ。
サービス開始前からつばぜり合いが続いていたオンライン専用料金プランだが、ふたを開けてみると、ahamoが一人勝ちの様相を呈していた。事前エントリーは250万を突破。契約者数も8月には180万、11月には200万を超えている。ドコモ内の料金プラン変更が相次いだ他、他社からの流入も増えたことがユーザー数急増の理由。MNPで負け続けていたドコモが、ahamoの導入で他社に一矢報いた格好だ。
一方で、KDDIのpovoやソフトバンクのLINEMOは、導入から間もないタイミングで相次いでサービスを改定した。最初に動いたのは、ソフトバンクのLINEMO。同社は、よりデータ使用量の少ないユーザーにターゲットを合わせ、3GBで990円の「ミニプラン」を7月に導入した。KDDIはpovoをpovo2.0に全面的に改訂。基本料を0円にしつつ、トッピングでデータ容量をある程度自由に変更できる仕組みを導入した。povoはリニューアルで勢いを増し、10月には100万契約を突破している。
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0円プランで先行した楽天モバイル、2社のサブブランドも順調に拡大
オンライン専用プランの影響を受けたのは、大手3キャリアだけではない。2020年4月に本格参入したばかりの楽天モバイルも、その1社だ。同社は4月にデータ通信が使い放題の「UN-LIMIT V」を改定。0円から3278円の間で料金が変動する、段階制のUN-LIMIT VIを導入した。段階制の料金プラン自体は大手3キャリアも導入しているが、楽天モバイルのそれは、1GB以下が無料になるのが最大の特徴。0円のままでも楽天市場での還元率が1%上がるため、ポイント目当てで契約することも可能になった。
使い放題と20GBという差はあるものの、大手3キャリアのオンライン専用プランとUN-LIMIT Vは金額がほぼ横並び。大手3キャリアに比べ、エリアが見劣りする楽天モバイルは、そのままだと“草刈り場”になる恐れもあった。本格参入開始後に始めた1年無料キャンペーンが終わるユーザーが、4月から徐々に増え始めるからだ。もともと料金競争を仕掛けた側だった楽天モバイルだが、大手3キャリアのオンライン専用プランに引きずられる形で、さらなる値下げ競争を余儀なくされたといえる。
とはいえ、UN-LIMIT VIの導入で楽天モバイルの契約者獲得に弾みがついたことも事実だ。3月には285万契約だった楽天モバイルのユーザー数は6月に366万を突破。9月には411万にまで拡大している。1年無料キャンペーンの駆け込み需要はあったものの、半年間で100万契約以上を上乗せできたのは、UN-LIMIT VIの成果といえる。結果として、大手3キャリアはもちろん、MVNOから楽天モバイルに移るユーザーも増えている。
先に挙げたKDDIのpovo2.0も、楽天モバイル対抗で導入されたサービスの1つだ。同社の高橋誠社長はpovo2.0の基本料が0円になったのは、楽天モバイルへの流出を止めるためだったと明かした。povo2.0はUN-LIMIT VIとは異なり、0円のままだと128kbpsでしか通信できないが、提携した店舗での購入特典としてデータ容量をもらえる「#ギガ活」を組み合わせれば、無料で利用することができる。このリニューアルで楽天モバイルへの流出が収まり、povo全体の契約者数は100万を突破した。
ahamoが先鞭(せんべん)をつけた料金値下げ競争だったが、KDDIやソフトバンクの場合、むしろ好調だったのはUQ mobileやY!mobileといったサブブランドだった。両ブランドとも、2月に新料金プランを導入。UQ mobileは6月に「でんきセット割」を、9月に固定回線を対象に加えた「自宅セット割」を開始した。割引を適用した際の3GBプランの料金は990円で、オンライン専用プランと比べてもそん色のない安さになった。
先行するY!mobileは700万契約、UQ mobileは5月時点で300万契約を突破するなど、両ブランドとも順調に拡大している。コンセプトの新しさから話題になりがちなオンライン専用プランだが、スマートフォンに慣れているユーザーですら、つまずくポイントは少なくない。端末を故障、紛失した際のサポート体制などにも不安が残る。店舗を構えるUQ mobileやY!mobileが、こうした点を重視するユーザーの受け皿になっているといえそうだ。
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低容量に特化して生き残りを図るMVNO、大手キャリアは5Gの普及が復活のカギか
大手キャリアが相次いで値下げする中、前倒しで対抗策を打ち出さざるをえなくなったのがMVNOだ。1月から4月にかけ、主要MVNO各社は新料金プランを導入。卸価格や接続料の値下げを料金プランに反映させ、MVNOが得意とする低容量、低価格帯の料金をさらに値下げした。例えば、IIJが展開するIIJmioは4月に2GBで858円からの「ギガプラン」を導入。NTTコミュニケーションズのOCN モバイル ONEは、20GB、30GBコースの新規申し込みを終了させつつ、データ容量の区分はそのままに料金を引き下げた。
OCN モバイル ONEと同様、NUROモバイルも低容量帯に料金プランを絞った「バリュープラス」を導入。最も安い3GBプランは、音声通話付きで792円と、大手キャリアのオンライン専用プランを下回る価格が好評を博した。大手キャリアが音声接続を導入したり、卸価格の基本料を見直したりした結果、MVNO各社の新料金プランは音声通話対応のプランが大幅に安くなった。また、音声接続を使った、自動プレフィックス機能が登場し、30秒あたりの通話料を11円に値下げする会社も増えている。
さらなる料金値下げでMNOに対抗したMVNOだが、その生存領域は以前より狭まりつつある。MVNOが主戦場としている3GB前後の料金プランの金額差が、以前より縮まっているからだ。MNOでも、サブブランドやオンライン専用プランを選べば、1000円以下で3GBプランを契約できるようになった。価格差が数百円であれば、あえて通信品質に波があるMVNOを選ぶ人は限られてくる。実際、総務省が12月に公表したデータを見ると、MVNOの契約者数は2021年に入ってから、緩やかに減少していることが分かる。
このデータのMVNOには新規申し込みを終了し、ユーザー数が増えることがない楽天モバイルやLINEモバイルも含まれる。そのため、新料金プランを導入したMVNO各社が苦戦しているわけではない点には注意が必要だ。IIJmioやOCN モバイル ONEは、前期比で着実にシェアを伸ばしている。オプテージのmineoも、シェアは横ばいだ。一方で、大手キャリア間でのブランド変更の手数料が無料になり、MNPの手続きも不要になった。他社からユーザーを獲得するのが、以前にも増して難しくなっているといえる。
とはいえ、新料金プランを導入した大手キャリアも“無傷”では済まない。半ば官製値下げといえる料金改定を一気に推し進めた結果、通信料収入は減少し始めている。状況を打開するには、非通信事業の強化とともに、よりデータ通信を使ってもらう工夫が必要になるはずだ。例えば、5Gに切り替えたユーザーは、データ使用量が増えるため、上位のプランを契約する傾向が強くなる。端末の大半は5G対応になっているものの、契約数は9月末時点で3000万弱にとどまる。残りのユーザーをいかに5Gへ引き上げていくかは、2022年以降の課題になりそうだ。
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からの記事と詳細 ( 一人勝ちのahamo、楽天モバイルの逆襲 2021年の“携帯料金競争”を振り返る:石野純也のMobile Eye(1/3 ページ) - - ITmedia )
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