SF研究者・大澤博隆の視点:ビジネスを遡ればこんなSFにたどり着いた! #3
最近の最も注目を集めるキーワードとなった「メタバース」。前回はこの概念のルーツとなる「サイバネティックス」という学問を取り上げたが、サイバネティックスが生み出したもう一つのトレンドが「サイボーグ」である。SFヒーローもののセオリーと思われているこの技術は、現在、社会のあらゆる課題解決の手段として注目されており、その先に大きなビジネスの市場が広がっている。
サイバネティックスのもう一つの子孫「サイボーグ」
前回は「サイバネティックス」という学問の影響として、「メタバース」「アバター」につながる「サイバースペース」のトレンドを説明したが、サイバネティックスから始まるトレンドとしてもう一つ注目すべきものに、人間と機械の体を組み合わせる「サイボーグ」がある。サイバネティックスは、人間と機械が本質的に同じシステムであるというビジョンを示したが、そこから生まれたサイボーグという概念は、人間と機械を合成し、体内の臓器ですらも機械化して人間を生き続けさせることが可能なのではないか、という問いから始まっている。サイバースペースが人工システムを通じて社会を拡張する手段とすれば、サイボーグは人工システムを通じて人間自体を拡張する手段といえるだろう。
概念としてのサイボーグは、古くからSF作品に登場している。例えば、ホラーミステリーの大家であるエドガー・アラン・ポーは、優れたSFも数多く生み出しているが、その中に1839年に発表された『使いきった男』という作品がある。これは、戦争の英雄が負傷した体の部位を次々と機械に取り替えていき、しまいには頭部以外の全てが機械となってしまうという話だが、サイボーグをテーマにした初期の小説と言える。
サイボーグはサイバネティックスという学問名と臓器(organism)を合わせた造語だが、実際に、その言葉を世の中に登場させたのは、工学者(シミュレーション科学研究者)であり音楽家でもあったマンフレッド・クラインズと、精神薬理学者として活躍していたネイザン・S・クラインだ。彼らは将来的な人類の宇宙進出を見込み、人間の臓器の一部を置き換える機械人間としてのサイボーグを1960年に提唱し、実際にネズミを使ってその実験を行った。
そしてこのサイボーグのアイデアに直接触発されたのが日本の漫画家、石ノ森章太郎である。彼は海外取材旅行中にこのサイボーグを取り上げた記事を読み、そこからサイボーグ化によって加速装置や超視聴覚能力、深海活動や頭脳強化能力などの超人的な能力を持ったヒーローたちの物語を考えた。これが傑作漫画『サイボーグ009』である。同時に彼はサイボーグをテーマにしたとある特撮のヒーロー設定にも深く関わった。敵の組織に捕まり、改造されたバッタ人間である本郷猛を主人公とした『仮面ライダー』であり、両作品はその後の日本のエンターテインメント史に大きな影響を与えている。
からの記事と詳細 ( 人は何歳まで健康に生き続けられるか、サイボーグ技術が変える生活スタイル - ダイヤモンド・オンライン )
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