「1日1万歩」という目標は、健康にとって価値のあるものだ。しかし、実はこの「1万」という数字は、もともと医師や専門家が提唱したものではなく、1960年代半ばに日本で発売された「万歩計」という商品名に由来している。漢字の「万」は、人が歩く姿に似ていると言えなくもない。「1万というのは、切りの良い数字だし、マーケティングメッセージとしても効果的だ。しかし、科学的な裏付けはあまりない」と、米マサチューセッツ州立大学アマースト校助教授のAmanda Paluch氏は言う。
そこでPaluch氏らは、歩数と心血管疾患との関連について調べた研究のメタアナリシスを実施した。その結果、健康にとって特別な意味を持つ歩数というものはないものの、歩数は多いほど健康に良いという説は裏付けられたという。この研究は米国心臓協会年次集会(AHA 2021、11月13〜15日、オンライン開催)で報告された。
この研究では、計1万6,906人(平均年齢62歳、女性51%)を対象に、心疾患、心不全、または脳卒中について、中央値で6.3年にわたって追跡した7件の研究結果が分析された。1日に歩く歩数に基づいて被験者を4群(各群の歩数の中央値は、1,951歩、3,823歩、5,685歩、9,487歩)に分けて解析を行うと、歩数が増えるほど心血管疾患のリスクが低減することが明らかになった。最も歩数の多い群の心血管疾患の発生数は、最も歩数が少ない群の半分以下であり(243例対491例)、ハザード比は0.60と計算された。
Paluch氏は、「この結果から言えることは、1万歩などの数字にこだわらずに、“もっと体を動かせ”ということだ。心血管の健康にとっては、少しでも歩数を増やすことに意味がある」と述べている。
今回の研究には関与していない、米エモリー大学准教授のFelipe Lobelo氏は、「よく歩くことは健康に良いとされていたが、歩くことと心血管疾患リスクの関係について具体的な結果が出たことで、さらに強い裏付けが得られた」と述べている。また、「過去の研究の多くは自己申告による運動量に基づいていた。自己評価では、運動量を過大評価する可能性が高い」とし、今回のメタアナリシスは、活動量が歩数計により正確に測定されている点でも意味があると強調する。
Paluch氏は、「今後は運動の強度による影響を評価するほか、メンタルヘルスやがんなど、心血管以外の健康にもたらす歩行のベネフィットについても検討したい」と述べている。
米国政府によるガイドラインでは、成人に対しては、週150分以上の中等度の有酸素運動が推奨されている。「心血管疾患の健康に関しては、1日1万歩まで歩かなくても、5,000~6,000歩でベネフィットが得られるだろう。これは週150分という運動時間にも一致する」とLobelo氏は言う。
Paluch氏は、「1万歩という数字に尻込みしてしまう人は多いだろうが、少しずつ歩数を増やす方法を考えれば良い。例えば、店から離れた場所に駐車する、エレベーターではなく階段を使うなどして、日常生活に歩くことを取り入れていくと良いだろう」と助言している。
なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものとみなされる。
[American Heart Association News 2021年11月16日]
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