12月22日、ソフトバンクは「新しい料金サービスに関する発表会」を開催し、オンライン専用ブランド「SoftBank on LINE」をはじめ、ワイモバイルとソフトバンクの新しい料金プランを発表した。
本誌ではすでに速報記事でお伝えしたが、ここでは今回のソフトバンクの3つのブランドでの発表をどう捉えるか、そこから見えてくる可能性などについて、考えてみよう。
3つのブランドで一斉発表
12月3日のNTTドコモの「ahamo」の発表で、一気にユーザーの注目を集めることになった各社の新料金プラン。12月18日にはNTTドコモがオンライン説明会を開催し、「ahamo」発表時に予告していたプレミアプランの内容として、既存の「5Gギガホ」などの料金プランを1000円、値下げする方針を明らかにした。
これに対し、12月9日に発表会を開催したauは、Amazonプライムをバンドルするフルサービスの料金プランを発表するのみだった。多くのユーザーが「ahamo」対抗のプランを期待していたこともあり、ネット上では辛らつなコメントが飛び交った。しかし、もしauが、ドコモの発表からわずか1週間後に対抗する料金プランを出せるのであれば、それは「ahamo」の内容が事前に漏れていたとも受け取れるだろうが、実際はそうではなかった。むしろauが方向性の違いをうまく説明できなかった感が残る。
同時に、auの発表会で示された料金プランの表記についてもユーザーから不満の声が聞かれた。
auが発表会のプレゼンテーションで示した月額は「3760円」となっていたが、本誌は「auから『Amazonプライム』付き5G新料金プラン、月9350円~」という記事タイトルを付け、これに小さい見出しで「割引適用で6カ月間3760円~」と追記した。もしかすると、各メディアの携帯電話料金プランのニュース記事の中で、はじめて『素の料金プラン』を見出しに使った記事が掲載されたケースかもしれない。
筆者は本連載の「どうすれば、携帯電話料金値下げが実現できるのか?」において、ユーザーが料金プランの内容を理解できるようにするため、「『素の料金プラン』をきちんと明示すべき」と指摘していたが、おそらく読者のみなさんや編集部も同じ考えだったようだ。
今回はこうした指摘が具体的に記事の見出しとなり、それが記事に対する反響につながったようだ。その後、競合他誌でも同様の表記で記事が掲載されるようになっており、今後はこうした表記が当たり前になっていくことが予想される。
今回、ソフトバンクが「新しい料金サービスに関する発表会」を開催することを耳にしたとき、新しい料金プランの内容だけでなく、料金や割引などの表記をどう表現するか、どのように説明するのかが非常に注目されたが、結果はご存知のように、NTTドコモの「ahamo」、auの「データMAX5G with Amazonプライム」などの反響を踏まえて、わかりやすい内容で『素の料金プラン』を提示してきた。
しかも今回の発表では、ソフトバンク、ワイモバイルに加え、「ahamo」対抗と言える「SoftBank on LINE」というオンライン専用ブランドを提案してきた。その名の通り、「LINE」のリソースを活かしたオンライン限定のサービスを提供しようという構えだ。「新しい料金サービスに関する発表会」と題しながら、主力サービスの「ソフトバンク(SoftBank)」、Yahoo!ブランドを活かした「ワイモバイル」、LINEを活かした「SoftBank on LINE」の3つのブランドで新しい料金プランを一斉発表してきたのは、かなり異例の取り組みと言えるだろう。
注目の「SoftBank on LINE」のサービス提供開始は、2021年3月を予定しているが、同時期にはYahoo!(ヤフー)を持つZホールディングスとLINEの経営統合を控えており、携帯電話サービスだけでなく、グループ内の各サービスの再編成も行われるため、ひとつの転換期を迎える。ソフトバンクが51%を出資する傘下のMVNO「LINEモバイル」も完全子会社化され、サービスは継続するものの、来年3月には新規受付を終了することを明らかにしており、「SoftBank on LINE」を実質的な後継サービスに位置付ける狙いだ。
LINEのブランド力とリソースを活かす「SoftBank on LINE」
まず、もっとも注目を集めたのは、オンライン専用新料金プランとなる「SoftBank on LINE」だ。
最大20GBのデータ通信量、月額2980円、5分以内国内通話無料、オンライン専用という設定は、NTTドコモの料金プラン「ahamo」とまったく同じ内容で、20GBを超えたときの追加料金も1GBあたり500円に設定。月額1000円を追加すれば、5分を超える国内通話も無料になるオプションも提供される。
ネットワークについてはソフトバンクと同一の4G/5Gネットワークを同一の品質で提供するとしており、MVNOのような昼間や夕方のトラフィック増による速度低下は起きないとしている。現状では使い道が限られるが、国際ローミングサービスも「アメリカ放題」が利用可能だ。
また、LINEの利用については「LINEがギガノーカウント」をうたい、LINEトークやLINE通話などもデータ通信量の負担なく利用できる。
LINEとの親和性をうたう部分には、 もうひとつSoftBank on LINEの特徴 が見え隠れしている。SoftBank on LINEはオンライン専用の新ブランドとなるため、既存のソフトバンクショップを利用できず、すべての手続きをオンラインで提供する。通常であれば、スマートフォンで利用するための「My SoftBank」のようなアプリやWebページを構築すると考えられるが、おそらくSoftBank on LINEではLINEを使った対話形式のメニューで、簡単な手続きを可能にすると推察される。
同様の対話形式の契約手続きのメニューは、すでにLINEモバイルで導入され、約2年近く運用された実績があるため、比較的、導入しやすいと見られる。ちなみに、海外のプリペイドSIMカードなどでは残高や有効期限を照会したり、料金プラン変更などの手続きをしたりするとき、SMSによるコマンドやUSSDコードなどを使った対話形式のメニューが提供されているが、LINEモバイルでも採用されてきた対話形式のメニューは、こうしたサービスと同様の構成となっており、はじめてのユーザーにもわかりやすい。
端末ラインアップについては、今のところ、何もアナウンスがなく、基本的にはSIMカードのみの提供で展開する方向で考えられているようだ。ただし、一般的なSIMカードだけでなく、 eSIMへの対応 を明言している点が注目される。
今のところ、国内ではIIJmioや楽天など、一部の事業者でしか提供されていないeSIMだが、総務省のアクションプランにも挙げられていたこともあり、SoftBank on LINEでは早速、採用する構えのようだ。
とは言うものの、国内で販売されている端末では、2018年発売のiPhone XSシリーズ以降、GoogleのPixel4以降、楽天のRakuten mini/BIG/Handなど、対応機種が限られており、どこまで対応をうたうのかは未知数だ。
eSIMサービスについては、ソフトバンク常務執行役員の寺尾洋幸氏が本誌インタビューにおいて、SoftBankやワイモバイルでも活用する可能性があると表明しているため、SoftBank on LINEだけのサービスにはならない見込みだ。
SoftBank on LINEはこの他にも気になる項目がいくつかあるが、現時点では決まっていないことが多く、ソフトバンクの関係者も「決まり次第、ご案内します」と答えている。
割引などを最小限に抑えたワイモバイルの「シンプルS/M/L」
ワイモバイルは菅義偉首相と武田良太総務大臣による一連の『携帯電話料金値下げ要請』発言に対し、10月28日の段階で、月額4480円で20GBのデータ通信と10分以内の国内通話無料をセットにした「シンプル20」を発表していた。
しかし、この発表が武田大臣の「メインブランドで(値下げの)発表がないのは不親切だ」発言につながり、今回のソフトバンクの3ブランドでの発表やNTTドコモの「ahamo」の発表などに結び付いた形だ。
そんなワイモバイルも「シンプル20」の提供を開始する前に、すべてを見直すことになり、今回、3GBで月額1980円の「シンプルS」、10GBで月額2980円の「シンプルM」、20GB月額3780円の「シンプルL」を発表した。
サービス開始時期は2月にずれ込むことになり、シンプル20などでセットになるはずだった国内通話の無料分は外され、従量課金となっている。
ただし、月額700円で10分以内の国内通話が無料の「だれとでも定額」、月額1700円で10分超の国内通話が無料になる「スーパーだれとでも定額(S)」も用意されるため、実質的には通話料オプションを分離した形になる。
また、ワイモバイルの新料金プランは、SoftBank on LINEと違い、店頭でも取り扱われるうえ、既存の割引サービスも一部、継承される。ひとつは光回線とセットにした「おうち割 光セット」、もうひとつは「家族割引」で、どちらか片方の割引のみが適用され、月額500円が割り引かれる。つまり、シンプルSを契約し、家族割が適用されると、月額1980円から500円が割り引かれて、月額1480円で利用できる計算だ。
逆に、これまで新規契約時に1年間限定で1000円を割り引く「新規割」は廃止される。これは発表会のプレゼンテーションでも榛葉副社長が触れていたように、ワイモバイルとしては「スマートフォンを使いはじめるときの負担を軽くしたい」という思いで提供していたものの、実際には1年後に「料金が高くなった」と誤解されるケースがあったため、今回は見直したという。
こうしたキャリアの思惑とユーザーの受け取り方の齟齬は、これまでの販売施策で数多く見られてきたことで、なかでも料金の割引サービスでは料金の見え方を複雑化する要因のひとつともなっていたため、シンプルにまとめたことは評価できる。
しかし、その一方で、1000円×12回分の割引がなくなったことも事実で、料金プランに組み込まれたという見方もできるが、可能であれば、PayPayボーナスなどのポイントサービスで還元する施策なども検討して欲しいところだ。
利用できるネットワークについては、現在提供中の4Gに加え、5Gにも対応する。今のところ、5G対応端末はラインアップされていないが、ワイモバイルに端末を供給するシャープやソニー、OPPOはすでに5G対応端末を他社向けに開発しているため、同等の機種をワイモバイル向けに供給することが考えられる。同時に、iPhone 12シリーズも例年に比べ、あまり動きが芳しくないことを鑑みると、早い段階で、一部の機種がワイモバイルで扱われる可能性も十分にあり得そうだ。
ソフトバンクも「メリハリ無制限」で使い放題に
ソフトバンクは2020年3月、NTTドコモやauと共に、5Gのサービスを開始した。楽天も2020年9月から5Gサービスを開始したことで、4社の5Gサービスが出揃ったが、これら4社のうち、実はソフトバンクのみがモバイルデータ通信の使い放題の料金プランを提供せず、動画SNS放題という機能を盛り込みながら、データ通信量に最大50GBの制限を設けていた。
今回はこれを見直し、いよいよモバイルデータ通信を使い放題とする料金プラン「メリハリ無制限」を発表した。割引などを適用しない素の料金プランが月額6580円に設定され、音声通話は20円/30秒の従量制、テザリングなどの料金も含んだ内容となっている。従来の「メリハリプラン」では他社に先駆け、データ通信量が一定量以下だったときに割り引く仕組みを採用していたが、これも継承し、今回はしきい値を2GBから3GBに上げている。これはNTTドコモの「5Gギガホ プレミア」がしきい値を3GBに設定したことに対する措置だろう。
逆に、仕様が違うのはテザリングなどの扱いで、「メリハリ無制限」はテザリングとデータシェアの利用が合計30GBまでに制限されている。一方の「5Gギガホ プレミア」はテザリングの利用も無制限としている。これはソフトバンクがスマートフォンで利用するための料金プランとして設計しているのに対し、NTTドコモは回線を提供することに対する料金を基本としているためで、両社の方向性の違いと言えそうだ。
また、割引サービスはワイモバイル同様、大幅に見直され、2つの割引サービスが提供される。ひとつは光回線とセットにした「おうち割 光セット」で、月額1000円が割り引かれる。最大3人の家族で加入したときの「新みんな家族割」は、2人で600円、3人で1100円の割り引かれる。この2つの割引はワイモバイルと違い、併用できるため、3GB以下の割引とおうち割 光セット、新みんな家族割がすべて適用された月は、月額2980円で利用できる計算になる。ワイモバイル同様、機種変更時や新規契約時に適用されていた期間限定の「半年おトク割」などは提供されない。
利用できるネットワークは従来同様、4Gと5Gのネットワークが利用できるが、5Gについては「5G基本料」「5G 1年おトクキャンペーン」の適用がなくなるため、4Gユーザーも「メリハリ無制限」を契約していれば、5Gへスムーズに移行できることになりそうだ。
わかりやすさを意識した3ブランドの新料金プラン
今回はSoftBank on LINE、ワイモバイル、ソフトバンクの3つのブランドで新料金プランが発表されたが、ここまでの説明を見てもわかるように、従来に比べ、かなり「わかりやすさ」を強く意識した内容となっている。
たとえば、発表会のプレゼンテーションでは、まず、素の料金プランを示し、そこに対して、固定回線のセット割、家族割などを組み合わせると、いくら安くなるという説明をした。これまでのような「いろいろ割り引くと、こんなに安くなる」という金額を最初に示さないのは、ユーザーとしても好印象であり、この部分は12月9日のauの発表会の反響を少なからず反映しているように見える。
新規契約や機種変更後、半年や1年間、月額料金を割り引くサービスも撤廃し、基本的には変わらない料金プランを示している。こうした市場の空気感を読みながら、臨機応変に対応するところは、ある意味、ソフトバンクらしいとも言える。
しかし、3つのサービスを展開するソフトバンクとして、課題も見えてきている。ワイモバイルとソフトバンクの新料金プランについては、既存の料金プランから置き換えられるものであるため、ユーザーもある程度、移行しやすいと言えるが、SoftBank on LINEは新規で起ち上げられるオンライン専用サービスであるため、わからないことが多く、ユーザーにはまだ不安が残されている。
たとえば、サポートや修理などがどうなるか、ユーザーがキャリアショップに来た場合はどう対応するか、端末は何が利用できるか、家電量販店などでは売るのか否かなど、疑問は尽きない。しかもその多くはソフトバンク内でもまだ決まってないというレベルであるため、 サービス開始までにきちんとユーザーに示すことができるかどうかが重要 になってくる。
また、もうひとつの共通した課題として、3つのブランドの相関関係をどうするのかも考える必要がある。
ソフトバンクは今回の「新しい料金サービスに関する発表会」の開催に先駆け、12月21日ソフトバンクとワイモバイル間の乗換えにかかる契約解除料やMNP転出手数料、契約事務手数料を無料にすることを発表し、今回発表されたSoftBank on LINEもこれに加えることが明らかにされた。
つまり、この3ブランド間で乗り換える場合は、追加費用が掛からないが、 ソフトバンクやワイモバイルの回線にはYahoo! JAPAN IDやPayPayの口座など、各社のサービスがいくつも紐付いている 。これらの扱いがどうなるのかは、現時点で十分な説明が示されていない。当然、新ブランドのSoftBank on LINEに移行するときも同じ疑問が出てくるだろう。
さらに、もう一歩、踏み込んで考えると、同じ事業者が提供するサービスでありながら、家族割引などの連携はブランド単位でいいのかどうかも悩みどころだ。たとえば、SoftBank on LINEはオンライン専用サービスであり、おそらく「ahamo」同様、お一人様でも割安に利用できるブランドという位置付けを含んでいるため、家族割引の対象にならないと言われても理解できる(もちろん、対象になれば、うれしいが……)。
これに対し、ワイモバイルとソフトバンクは、いずれも既存のソフトバンクショップやワイモバイルショップなどで契約やサポートが受けられるサービスであり、両ブランドを扱うショップも存在する。たとえば、同じショップで契約しながら、父親はソフトバンクで「メリハリ無制限」、母親と子ども(学生)はワイモバイルで「シンプルS」や「シンプルM」を契約するケースも考えられるだろう。この場合、母親と子どもは家族割引の対象になるが、父親は蚊帳の外という扱いになる。もし、家族割引を利用したければ、いずれかのサービスにまとめる必要があるわけだ。
当然、これらは支払いにも影響してくる。月々の支払い額はそれぞれが選ぶ料金プラン次第だが、家族によっては、まとめて請求される方が良かったり、同居しながら、それぞれが自分の稼ぎで払うという家族も居る。仮に、家族がブランドをまたいで契約した場合、現状のように、ブランドごとに個別に請求する形のままでいいのだろうか。
こうなってくると、3つのブランドで展開する意義も考え直さなければならない。料金プランとしてはシンプルにできたものの、ブランドという余計なファクターが加わったことで、逆に乗換えや請求がわかりにくくなりそうな不安も残されている。
こうした歪みは料金プランでありながら、サブブランドのような「ahamo」でも見られたことで、その背景には武田大臣の「メインブランドでなければ不親切」という発言に端を発した「メインブランド/サブブランド」論争がある。
そもそもの話として、ブランドは商品を販売したり、サービスを提供する会社が考えるもので、消費者がそれを認知するかどうかを決めていくものだ。 企業がどのブランドで何を扱うのかということにまで、政治が介入するのは、はっきり言って、行き過ぎ でしかなく、監督官庁の責任者として、もう少し発言には十分にご留意いただきたいところだ。
今回発表されたソフトバンクの3ブランドの料金プランは、ワイモバイルが2021年2月、ソフトバンクとSoftBank on LINEは同年3月から提供される。既存プランからの変更は基本的に締め日の翌月から適用されるため、早ければ、ワイモバイルのユーザーは1月中にも料金プラン変更の手続きを検討する必要がありそうだ。ユーザーとしては少しでも割安な料金で利用できることは大歓迎だが、ソフトバンクとして、3つのブランドと関連する各サービスをいかにわかりやすく整理し、再構築していくのかも注目される。今後の同社の発表をしっかりとチェックしていきたい。
からの記事と詳細 ( ソフトバンクは3つのブランドと新料金プランでサービスを再構築できるか? - ケータイ Watch )
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