著:Marlise Hofer (ブリティッシュコロンビア大学、PhD Student, Department of Psychology)、Frances Chen (ブリティッシュコロンビア大学、Associate Professor, Department of Psychology)
質の良い睡眠がとれない、あるいは大事な面接を控えていて神経が高ぶっている、という方に朗報だ。「パートナーが来ていた服のにおいをかぐと、睡眠の質が向上し、気持ちが静まる可能性がある」のだという。
パートナーの服のにおいをかぐという行為は珍妙に思えるかもしれないが、実は珍しいことではないのだ。ある研究で、研究者が被験者に対し「パートナーの不在時に、相手が着用済みの服と一緒に寝た、あるいはにおいをかいだ経験はあるか」と尋ねたところ、女性の80%以上、男性でも50%以上が「経験あり」と回答している。多くの人は、そうすることでリラックス効果や安心感を得られるという。
◆社会的な「におい」と健康
私はブリティッシュコロンビア大学の同僚とともに、恋人やパートナーのにおいをかぐことで心身の健康にプラス作用をもたらすかどうか、調査することにした。
具体的に、我々は2つの実験を行った。1つ目は、「パートナーのにおいが睡眠の質を改善するか」という実験だ。この研究結果はサイコロジカル・サイエンス(Psychological Science)誌に掲載されている。そして2つ目の実験では同様に、「パートナーのにおいがストレス軽減につながるか」を調べた。詳細はジャーナル・オブ・パーソナリティ・アンドソーシャルサイコロジー(Journal of Personality and Social Psychology)に掲載された。
いずれの研究も、自然な状態での体臭を採取するため、被験者には無地の白いTシャツをアンダーシャツとして24時間着用してもらい、体臭を変化させる作用のある喫煙や香辛料、また香りつきのボディ用品などの使用を控えてもらった。また、シャツ着用前の入浴には無香料のシャンプーと石鹸を使用してもらっている。そして被験者から返送されたシャツは、においを保存するため、すぐに冷凍保存した。
◆睡眠の質とにおい
1つ目の実験は、パートナーのにおいで睡眠の質を改善するかどうかを調べた。まず、155名の被験者それぞれに見た目が同じシャツを2枚ずつ手渡す。そのうちの1枚は通常のシャツ、もう1枚はパートナーが着用したシャツだ。
各被験者には睡眠の質をモニターするスリープウォッチを着用した上で、パートナーのシャツを枕カバーとして2晩、通常のシャツも同じく枕カバーとして2晩使用してもらい、毎朝、前夜の睡眠の質について報告してもらった。
実験終了後には、彼らに「パートナーが着用したシャツはどちらのシャツか」を推測してもらった。
被験者は一様に、自分が「パートナーのにおいを感じた」ときに「よく眠れた」と答えている。一方、スリープウォッチのデータを見ると、実際にパートナーのシャツを枕にした夜に寝返りの回数が少ない(つまり睡眠効率が高い)ことがわかった。この結果は、被験者の認識とは関連性がなく、人が無意識のうちにパートナーのにおいによる効果を享受していることを示している。
今回の研究では、パートナーのにおいに触れた被験者は1日平均9分、週換算で1時間以上睡眠時間が増えたことがわかった。これは、被験者がベッドで過ごす時間を増やすことなく達成されている(つまり、眠ろうとあえて努力したわけではない、ということ)。パートナーのにおいによる睡眠改善効果は、睡眠補助薬として使用されるメラトニン配合のサプリメントに記載されている改善効果とほぼ一致していた。
◆においとストレス
もう1つの研究では、パートナーのにおいでストレスが軽減されるかどうかを調査した。手順として、まず我々の研究室で被験者の女性96名に対し、ストレスのかかる模擬就職面接を受けてもらう。そして面接の前と最中、終了後に、パートナーが着用したシャツおよび通常のシャツのにおいをかいでもらった。
実験の結果、面接の前後にかかわらず、パートナーのシャツのにおいをかいだ女性のほうが、ストレスが少ないことがわかった。そのうち、パートナーのにおいのついたシャツを正確に認識していた女性のほうが、ストレス時に体内で放出されるホルモン「コルチゾール」の反応が低下していた。
これらの調査結果は、パートナーのにおいによる効能は、それを認識している場合に最も強く作用することが示唆している。
◆今後の研究
今後の研究では、社会的なにおいにかかわる別の疑問についても調査していく予定だ。たとえば、パートナーとの関係性に満足している人のほうが相手のにおいによる効能が大きいのか、また親子関係などでもこのような作用が見られるのか、という点だ。
社会的なにおいが健康に与える影響を理解することで、将来的に「旅行中にパートナーのスカーフやシャツを携帯する」というように、幸福感を促進するシンプルな手法の有効性を検証できるようになる。現在の研究により、我々は無意識のうちに鼻を使った「においコミュニケーション」を交わしていることが明らかになったのだ。
This article was originally published on The Conversation. Read the original article.
Translated by isshi by Conyac
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March 15, 2020 at 08:12AM
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