ソフトバンクは、6月17日、AI検索エンジンを開発するスタートアップのPerplexityとの戦略的提携を発表した。この取り組みによって、ソフトバンク、ワイモバイル、LINEMOのユーザーはPerplexityの有料版にあたる「Perplexity Pro」を1年間、無料で利用できるようになる。料金プランは問わず、LINEMOの月額990円で利用できるミニプランも対象だ。
月額2950円の「Perplexity Pro」がついてくる(1年)
Perplexity Proの料金は、月額2,950円。1年契約でまとめて支払うと、年額29,500円になる。ChatGPTの「ChatGPT」が月額20ドル(約3,150円)で、AIチャットとしては特段高いというわけではないが、大手キャリアが提供するサービスとしては比較的高額。1年限定ながら、3万円ぶんに近いサービスが月額990円のLINEMOだけで無料になるのはうれしい人が多いはずだ。
Perplexity Proは、検索に特化したAIサービス。AIモデルとして、OpenAIの「GPT-4o」やAnthropicの「Cloud 3 Opus」などを用意しているのが特徴。いずれのAIモデルも上記の料金内で選択できる。また、ネット上をクロールして、最新の情報を取り入れているため、うたい文句通り、会話型の検索エンジンとして活用できる。OpenAIのAIモデルを取り入れ、検索に応用したBingやWindowsに搭載されるCopilotに位置づけは近い。
AI検索の実力
以下の写真は約2週間前に発表されたLINEMOの新料金プランと、楽天モバイルのRakuten最強プランのどちらが安いかをたずねた時の回答。どちらも公式サイトから最新の料金を引いており、10GB以下で音声通話をしなければLINEMOが安いという正解が返ってきた。また、写真に写っていない部分では、10GBを超える場合や、音声通話が多い場合には、Rakuten最強プランに軍配が上がることも記載されていた。
通常の検索エンジンでこれを調べようと思うと、なかなか骨が折れる。両プランを比較した記事がヒットすればそれを読むだけで済むが、必ずしも適切なサイトが見つかるとは限らない。答えがない時には、ソフトバンクのプレスリリースと、楽天モバイルの料金ページをそれぞれ見比べ、容量ごとの料金を比べていく必要がある。AIが複数のサイトを横断して、答えを提示してくれる点は従来型の検索エンジンにはない特徴と言えるだろう。
ちなみに、本稿は17日の発表会直後に執筆しているが、「ソフトバンクとPerplexityの提携内容を詳しく教えて」と聞くと、早速、日経新聞電子版やソフトバンクのサイト、ITmediaなどをソースにして、提携内容を詳しく教えてくれた。
3ブランドの契約者が1年無料になることや、上記の料金なども一通り網羅されているほか、Perplexity Pro自体の特徴も軽く触れられている。要点だけなら、ここまでの内容はPerplexity Proに聞いた方が早かったかもしれない(笑)。
ソフトバンクがコンシューマ向けにAIを強化する狙い
それはさておき、ソフトバンクの狙いはAIサービスを普及させるところにあると見ていいだろう。Perplexity Proは「この提携により、ソフトバンクはPerplexityの革新的な生成AI検索エンジンを自社ユーザーに無料で提供することで、AIサービスの普及を狙っている」としているが、同様の趣旨は、ソフトバンクの専務執行役員 コンシューマ事業推進統括 寺尾洋幸氏も語っていた。
寺尾氏は、「今は最初の段階でプロンプトエンジニアリングという話があったりして少し難しい。これをできるだけかみ砕いて、分かりやすくお届けするのが責務」と提携の狙いを説明。生成AIでサービスはもちろん、端末のあり方まで変わっていくことを踏まえ、先手を打ったと言える。
「回線(獲得)への効果やARPUに対する効果はあるが、一番大きいのは、AIをどう進めていけばいいのかの先進的な事例になる」(同)というのが、ソフトバンクの狙いだ。
とは言え、寺尾氏が「最初の一歩だと思っている」と語っていたように、今回の提携は、戦略的と銘打たれてはいるのとは裏腹に、料金が主な中身。ソフトバンクがPerplexity Proをプロモーションして、無料でユーザーに使ってもらうことで拡大が図れる一方で、ソフトバンクの強みや技術、資産が生かされているかというと、必ずしもそうではない。
先に発表があったように、ソフトバンクはシャープの堺工場をAIデータセンターに転用するほか、北海道苫小牧市に国内最大級のデータセンターを建設するが、現時点ではこうした取り組みとどう連携していくのかは明かされていない。また、3月に設立したSB Intuitionsが開発する日本語に特化した生成AIサービスも生かされていない。
ただし、寺尾氏によると、今後、Perplexity Proで選択できるAIモデルの1つにSB Intuitionsが開発したLLM(大規模言語モデル)が採用される可能性はあるという。Perplexityの創業者の1人でCEOのアラヴィンド・スリニヴァサ氏も、「今後、もっと多くのモデルを選べるようになる。特に日本語に特化したモデルを選べるようになることで、よりよいものになる。ソフトバンクが開発するモデルがあれば、ぜひPerplexity Proに組み込んで提供したい」と語っている。
AIモデルを選択できるサービスという立ち位置のため、モデル開発を行なうソフトバンクと手を組みやすいというわけだ。
日本語に強いLLMは、大手キャリア各社も開発を進めている。代表的なのはNTTが開発した「tsuzumi」で、軽量ながら日本語ベンチマークでは高い性能を発揮している。KDDIも、スタートアップのELYZAを子会社化し、LLMの開発を加速させている。一方で、どちらもユースケースは法人向けにとどまっており、コンシューマーに広く普及させる計画は発表されていない。
1年限定ながら、コンシューマーにサービスを提供し、後々自身で開発した言語モデルを組み込んでいくという点では、ソフトバンクがリードしている。キャリアの取り組みとしては異例だが、マイクロソフトやグーグルは、コンシューマーにも広くサービスを提供している。ChatGPTがここまで急速に伸びたのも、対象となるユーザーを限定していなかったことが一因。その意味では、むしろソフトバンクの取り組みの方が正攻法に近いと言えるだろう。
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