オンライン医療相談アプリとして2018年にリリースした「リーバー」。サービスを運営するリーバー代表取締役の伊藤俊一郎氏は、在宅医療を提供するクリニックチェーンや老人ホームを経営する現役医師かつ経営者でもある。2020年6月には教育機関向けに体温・体調管理、出欠席連絡機能を加えた「LEBER for School」を公開。2021年11月現在で全国約1000校、約30万人が毎日利用する巨大アプリとして存在感を示している。学校の健康観察に採用された理由や、医師としての思いを中心に話を聞いた。
「本当に困っていた」との要望にジャストフィット
――2018年に提供を開始したオンライン医療相談アプリの「リーバー」ですが、2020年6月には教育機関向けの「LEBER for School(リーバー フォー スクール)」をリリースしました。これを機に全国の学校で一気に導入が進みましたが、このアプリを開発しようと思ったきっかけは。
そもそもの発端は最初の緊急事態宣言を受け、自分が経営している医療機関や老人ホームに厚生労働省から「職員の健康観察を徹底せよ」との通達が来たことです。ところがご多分に漏れずそれまでの健康観察は紙で行なっていたため、まずはデジタル化しようとのことでリーバーに改良を加えました。具体的には体温、症状、出勤・欠勤などの簡単な問診機能をチャットボット機能に追加し、毎日同じ時間にプッシュ通知できるようにしました。回答しないとスヌーズにより何度も送信される仕組みです。
そうこうするうちに、私の子どもが通っている保育園でも健康観察が必要になってきました。我々医師は高齢者同様、子どもたちの健康も守る義務があります。そこで、地元で仲良くさせていただいている茨城県つくば市やつくばみらい市の市長に「高齢者施設のエッセンシャルワーカー向けに作ったサービスがあるのだが、これを子どもたちの健康観察に転用できないか」と持ちかけたところ、「本当に困っていたからぜひ活用したい」と、トントン拍子で両市の教育委員会で導入が決定しました。
――なるほど。地元密着の関係性がスタートになっているのですね。
はい。そこから子どもたちの健康観察ツールとして徐々に広がりを見せていきました。保護者にとっては子どもの体温や体調をスマホで管理できるので非常にありがたがられています。従来は紙の健康観察記録を必ず持っていかねばならず、休むときも近隣に住んでいる児童・生徒に託して渡す必要がありました。冷静に考えれば、紙を渡す行為にも接触感染のリスクが潜んでいるわけですから、管理とリスク対策の面で一石二鳥になったわけです。
他方、学校の先生たちの働き方改革にも大きく寄与しています。アプリ導入前は、紙の集計を毎日手作業で入力しなければならず、その時間は残業になっていたそうです。リーバー フォー スクールの導入により、無駄な作業時間はすべて削減されました。また、新型コロナの前から朝の時間は出席・欠席報告などで電話が鳴り止まなかったのが、アプリで報告できるために驚くほど鳴らなくなったとも聞きました。これらの効果が先生たちの口コミとしてどんどん広がっています。世間ではパンデミックによりDXが盛んに叫ばれていますが、上手く行った稀有なDX事例だと思います。
――どれぐらいの学校が導入済みなのですか。
現在は約1000校、約30万人がリーバー フォー スクールを使って健康観察を行なっています。ですから朝の時間のサーバー負荷は大変なことになっており、その点は目下の課題です。
利用料金については、教育委員会もあれば、学校独自の予算で対応してくれるケースもありますが、実は半分ほどがPTA会費から捻出してくれています。学校の特別予算を確保するのはとても難しいからです。私が言うのも何ですが、これだけ利便性の高いアプリなのに公的な予算をなぜ充てないのかとの思いがあります。PTA会費で健康観察アプリの料金は賄われている、その現実はぜひ伝えてください。
――わかりました。今後は、ロビー活動を通じて国に働きかけていくことも重要なのでは。
そうですね。健康観察を開始してから2年近くが経過したので、その実績をまとめて代議士などにも訴えかけていく必要があるのではないかと考えています。正直なところ、私はそうした活動が得意ではないのですが、懇意にしている代議士の先生もいますので、少しずつ始めていきたいなと。
感染症には「症候群サーベイランス」という考え方があります。データを収集・分析して感染症の早期対策に役立てるものですが、現時点でリーバーは日本最大規模の新型コロナに関する健康観察データを集計していると思います。なので、我々のデータを症候群サーベイランスにぜひ活用してほしいとの思いがある。本当に実現したいのは、日本のどの地域から感染が広がり始めるのかを早期に把握することです。それがわかれば、PCR検査や抗原検査を特定地域で集中的に実施できるようになります。ひいてはそれが、科学的にもコスト的にも正しい感染症対策につながっていきます。
もともと学校は感染症の宝庫でした。今は過剰なほどの感染症対策が敷かれているので新型コロナ以外のデータはあまり入ってきませんが、当然ながら新型コロナが日常化する時代は必ずやってきます。今後は、いろんな感染症に活用できるようにしていきたいですね。
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