TBS『日本沈没-希望のひと-』が好調だ。
ビデオリサーチの世帯視聴率では、これまで4話すべてが15%台(関東地区)。
タイムシフト視聴率も今期全ドラマの中で1位。見た人の総数では『ドクターX』と並び、トップクラスとなっている。
スイッチメディアの特定層個人視聴率では、広告主のニーズが高いコア層(13~49歳)で首位。他に「経済・ビジネス」「政治」「国際」など社会問題の関心層では、他を寄せ付けない強さを見せている。
ところがSNS上では、地殻変動や関東沈没を表現するためのCGに対して、「ショボい」「安っぽい」など酷評が目立つ。ヤフーJAPANのリアルタイム検索では、7対3の割合で“ネガティブ”が多い。
ではSNSで盛んにつぶやく“ラウドマイノリティ”ではなく、特に声を上げない“サイレントマジョリティー”は同ドラマのCGをどう受け止めているだろうか。
視聴データとドラマの構成の分析から、評価を考えて見た。
SNS上の毀誉褒貶
TBSの日曜劇場は、レギュラーの広告枠をすべて電通が仕切る特別なドラマだ。
出稿社は90秒分のタイム広告を提供するスポンサーに限定されている。結果として、民放全ドラマの中で最もコストをかけられる枠となっている。
しかも今期の『日本沈没』は、放送終了後の深夜0時からネットフリックスで世界配信を始めた。
報道によれば1話につき1億円ほどが支払われているというから、従来の倍の経費をかけることも可能だ。実際に同ドラマのプロデューサーは、「本作はすでに3月に撮り終わり、CG制作にも多少は時間がかけられた。時間とお金をかけられれば、日本でもそれなりのクオリティを出すことはできる」と答えている。
演出側にとって、CGは自信作のようだ。
ところがSNS上の声は厳しい。
「日本沈没」と「CG」でリアルタイム検索すると、7割はネガティブなつぶやきとなった。
「CGなんかショボいし危機感あんまり感じない」
「いまいち緊迫感が伝わらない」
「これじゃあ世界に通用しないな」
「クオリティがとんでもなく低かった」
言いたい放題といった感じだが、一方でポジティブな意見も散見される。
「アスファルトが波打ちながら崩れていくシーン、CGうまー」
「リアルで驚いた」
「臨場感凄かった‼」
「今のCGってすげー。 本当に東京が沈没してる」
視聴者の反応
SNS上では毀誉褒貶が激しい。
では普通の視聴者はどう受け止めたのだろうか。リアルタイムに番組を見た人々の反応を、視聴データで分析してみよう。
スイッチメディアは関東地区で、番組への注視率を測定している。
番組中テレビに顔が正面を向いていると判定された人の比率だ。番組やCMが人々をどれだけ惹きつけていたかの一つの目安となる。
日曜夜9時台の全放送の平均注視度は30%前後。
これと比べると、『日本沈没』は平均以上に注視されていることがわかる。特に毎話の後半から終盤は40%を超えるほどの好記録となっていた。
ただし第3話「葬られた不都合な真実」だけは例外で、裏の番組と同じ程度の注視度しかとれていなかった。実はこの回だけCGがほとんど登場せず、間近に迫った危機をどう国民に伝えるか、政府内での意見の対立を中心に描いた回だった。
では注視率が40%を超えるのはどんなシーンか。
これまで4回の放送の中で11シーンほどあったが、海底での地割れ、地殻変動のシミュレーション映像、実際の地震の場面など、大半でCGが使われていた。
つまり普段目にすることが稀なシーンをCGが映像化すると、人々の視線は吸い寄せられる傾向にあることがわかる。
中でも注視率が45%を超えた6シーンでは、5シーンまでがCGによるものだった。
壊滅的な地震の映像はいうに及ばないが、地殻変動のシミュレーション映像など危機感を煽るようなCGでも、人々は食い入るように見る傾向がある。
「チープ」「緊迫感がない」などの酷評がSNSでは目立ったが、視聴データで見る限り多数派の視聴者はCGによる演出で心が動いていたことがわかる。
CGの威力
ではCGは演出的にどんな威力を発揮するのか考察してみよう。
4話までで注視率40%以上が最も長く続いたのは、第2話ラストの官邸での会議シーンだった。約72秒間に渡って、視聴者の目が釘付けになっていたことになる。
その直前が天海と田所博士が官邸に到着したシーン。
そのころ海底では着々と異変が進行していたことを示すCGが出て、注視率は一挙に10%ほど急上昇した。そこでセリフなしの天海と田所の顔で、真実が伝えられたことを示す。
そして落胆しつつも、次にやるべきことを覚悟した天海の顔アップが編集された。この間およそ20秒、高い注視率が維持される。つまりCGで注目を集め、そのテンションを役者の演技で維持する演出が決まっていたのである。
直後の官邸での会議も同様だった。
田所博士のシミュレーション映像へのズームインで、注視率は40%を突破。そして日乃島が水没した後に、京浜・京葉工業地帯から水没が始まる。さらに江東区・品川区・大田区に被害が広がり、やがて東京・神奈川・千葉・埼玉に沈没が広がって行く。この間、セリフはほとんどない。
「遅くとも1年以内に関東沈没が始まる」と田所博士。
首相以下、驚くメンバーたち。そしてシミュレーション映像は南関東を完全に水没させ、東京の空撮および宇宙から見た関東地方(CG)へと展開する。
ただし全体で70秒を超えるシーンが注視率40%以上を維持し、徐々に45%も超え50%に迫るには演出の妙もあった。
CGとCGの間に、首相(仲村トオル)・副総理(石橋蓮司)・官房長官(杉本哲太)・常盤紘一(松山ケンイチ)・主人公の天海啓示(小栗旬)・田所博士(香川照之)の顔のアップなどが、1~2秒のテンポで挿入さる。その度に科学的なシミュレーション映像に社会的な意味合いが加えられ、見る側の緊迫感は増して行った。
名優たちによる人間ドラマとの相関で、CGは存在感を高めていたのである。
CGの真骨頂
第4話では、終盤に注視率40%前後のシーンが3分半ほどある。
実はここではCGは全く出てこない。関東沈没から逃れるため、避難バスが各地へ出発することになった。ここでヒロイン・椎名実梨(杏)が母(宮崎美子)と別れるシーンがあり、続いて主人公・天海が家族と別れるシーンとなる。
その娘と出会う瞬間が注視率50%とドラマ全体の最高を記録した。
他にも妻(比嘉愛未)との会話、そしてバスが出発した後に主人公が椎名と出会うシーンが来て、高注視率が続いたのである。
この一連で、天海が離婚に同意したのは、妻と娘を東京から避難させるためだったことがわかる。
そして天海が親友の常盤と袂を分かったのは、将来のある常盤を巻き込みたくなかったことも判明する。CGがなくとも、人間の想いが込められたシーンは、視聴者を十分に惹きつけることがわかる。
ただし緩急の“緩”に相当する一連のしんみりするシーンの直後に、“急”が襲う。
恐れていた地震が想定以上に早く始まったのである。注視率は再び50%近くまで急騰し、45%以上が20秒ほど続く。とっておきのCGの威力は抜群で、しかも家族や親友を思いやる温かい気持ちを蹴散らかすような激震で、視聴者の気持ちも大きく揺り動かされてしまった。
やはりCGは、物語のどこに使うかで威力が大きく異なるようだ。
CGだけを取り出し、クオリティを専門的見地から論ずれば多様な意見が出てくるのだろう。ただしドラマの中で使われるCGは、最大多数の視聴者の心をどう動かすかで成否が決まる。その意味では注視度で見る限り、名優たちがからむ巧妙な構成の中で登場することもあり、『日本沈没』のCGは十分機能しているのではないだろうか。
そういえば4話までのラストカットは、すべて小栗旬の顔となっていた。
そのうち3回までは、CGの後に顔が出てくる。
日乃島水没のCGの直後の小栗「日本の未来は我々にかかっているのです」(初回)。
関東沈没のCGなどの直後の小栗「私たちで関東沈没から国民を守らなければなりません」(2話)。
CGのない3話ラストは、官房長官の「国家機密を漏らした者はいないよな」の言葉に黙秘する小栗。
そして4話「関東沈没のはじまり」ラストは、道路が波打つ激震(CG)で倒れこむ小栗の顔のアップ。
最新のテクノロジーは、人間を介して味わうことで、見る者の心に響くか否かが分かれるようだ。
からの記事と詳細 ( 『日本沈没』のCGはショボい?リアル?~視聴データが示す多数派の評価~(鈴木祐司) - 個人 - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース )
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