楽天モバイルが、Jリーグのプロサッカークラブ「ヴィッセル神戸」の本拠地であるノエビアスタジアム神戸で5Gを用いた新たな実証実験を次々と実施している。
幅広いパートナー企業や大学と5Gを活用した新たなサービスの共創を目指す「楽天モバイルパートナープログラム」の一環として行われたもの。世界初の完全仮想化クラウドネイティブモバイルネットワーク(※)で業界の常識を変えた同社は、5Gの先にどのような未来を描こうとしているのか。同プログラムの狙いと取り組みを取材した。
「楽天モバイルパートナープログラム」の取り組みや狙いを聞いた
「楽天エコシステム」との幅広いシナジーを創出
楽天モバイルパートナープログラムは、楽天モバイルが正式サービス開始以前の2020年3月からいち早く展開してきた、5Gのビジネス開拓に向けた取り組みだ。
5Gネットワークを生かしたサービス検証の場を提供する「ロケーションパートナー」、ソフトウェア・ハードウェアを保有する「技術パートナー」、ユーザー向けのサービスを保有する「コンテンツパートナー」、サービス・実証実験の機会を提供する「イベントパートナー」を幅広く募集。企業だけでなく、自治体や大学の研究機関など、業種や業界の垣根を越えてパートナーシップを結び、現在多くのプロジェクトが進行中だ。
共創パートナーの種別
プロジェクトを統括する楽天モバイル 5Gビジネス本部 ビジネスソリューション企画部 部長の益子宗氏は、楽天モバイルが共創に取り組む意義について、「5Gというインフラをどう活用し、どう世の中の役に立てていくか。多くのパートナーと業種、業界の垣根を越えて取り組むことでより良いアイデアが生まれ、サービスの社会実装も可能になると考えている」と説明する。
5Gを活用した共創の取り組みは他社も展開しているが、楽天グループならではの強みは、EC、FinTech、デジタルコンテンツなど70を超えるサービスを展開していること。社外だけでなく、グループ内でも業種・業界を超えたシナジーを生み出すことが可能だ。
また、現在は多くのプロジェクトが、プログラムのSTEP1である技術研究(R&D)、またはSTEP2の概念検証(PoC)の段階だが、今後STEP3のビジネス検証(PoB)、STEP4の商用化(Service)へと進んでいけば、“楽天エコシステム(経済圏)”と呼ばれる楽天の会員基盤や70以上のサービス等との連携も視野に入ってくる。パートナーやパートナー候補の企業や団体からは、このようなグループの持つ様々なアセットや、楽天エコシステムのポテンシャルに対する期待値も高いという。
スタジアムで大規模な「5G×AR」実証実験を成功
さらに注目されているのが、冒頭にも紹介したロケーションパートナーのひとつ、ノエビアスタジアム神戸の存在だ。楽天モバイルは約3万人の収容が可能なこの場所に、5Gのミリ波を用いたエリアを構築している。高周波数帯の広い帯域を使って高速な通信を可能にするミリ波は、一方で遮蔽物に弱く、現在提供されているエリアの多くがごく狭いスポットでの提供となっている。
ミリ波を使って、スタジアムの観客席を5Gエリア化している例は、稀と言っていいだろう。「ミリ波を用いて点ではなく面でエリアをカバーしているので、ラボではできないような動的なフィールド・トライアルが可能。すでにエリアが構築されているため、基地局設置にかかるリードタイムがなく、クイックに検証ができる。またこれまでの実証実験で得られた知見やノウハウも、蓄積されてきている」(益子氏)
楽天モバイル 5Gビジネス本部 ビジネスソリューション企画部 部長の益子宗氏
たとえば、ノエビアスタジアム神戸を本拠地とするヴィッセル神戸と実施した、「5Gを活用した新たな試合の観戦体験」も、そうした実証実験のひとつだ。
2020年末には「ARを用いた統計&リアルタイム追跡データの表示」「ARを用いた多人数参加型ゲームの実施」「試合開始前のマルチアングル映像による低遅延視聴」の3つの実証実験を実施。さらに2021年の11月3日には、VPS(Visual Positioning System)技術を用いた「選手情報、試合情報のAR表示」、「AR広告の表示およびインターネットショッピングとの連携」の実証実験も成功させている。
5GとVPS技術を組み合わせてARコンテンツを利用する実証実験に成功
座席のどこからでもピッチ上にARが表示できる
同社ビジネスソリューション企画部 サービス企画課の佐藤 瞳氏によれば、実証実験に使われたVPS技術は、技術パートナーであるImmersalの提供によるもの。ARコンテンツを表示させる場合、通常では、マーカーなどを利用して、現在位置を把握するが、大規模空間の場合、ARの精度を十分に上げることが難しい場合がある。
一方のVPSでは、楽天モバイルが持つノエビアスタジアム神戸の3Dデータと、スマートフォンやスマートグラスのカメラから得られる情報を照らしあわせることで、デバイスの向きや相対的な位置を高い精度で特定し、ARコンテンツをスタジアムの形状に合わせた任意の位置に正確に表示することが可能だ。
楽天モバイル ビジネスソリューション企画部 サービス企画課の佐藤 瞳氏
実証実験ではマーカーなどを読み込む手間なく、会場のさまざまな座席からARコンテンツを表示できることが確認できたという。専用アプリでは選手情報や試合情報のAR表示に加えて、AR広告の表示や「楽天市場」との連携も可能に。選手をタップするとユニフォームなどが購入できる、新たなショッピング体験も提供された。まさにグループのアセットを生かした実証実験であり、将来のサービス展開においてもシナジーが期待される取り組みの一例と言えるだろう。
産学公連携で「混雑緩和」や「経済活性化」も
また楽天モバイルでは、ノエビアスタジアム神戸を舞台に、産学公連携の社会課題解決に向けた実証実験にも取り組んでいる。10月から11月末にかけて神戸大学、デンソーテンとともに実施しているのが、イベント時の混雑緩和策の検討および、イベント会場周辺の経済活性化を目指した実証実験だ。
5Gを用いて会場周辺の混雑状況がわかるライブ動画などを配信したほか、会場内での待ち時間に応じたインセンティブ(ポイント)を専用アプリに付与。サポーターに混雑を避けた分散退場、分散帰宅を促すと同時に、ポイントを周辺施設で利用可能なクーポンに引き替えられるようにして、経済の活性化も図った。
サッカーの試合後に「混雑緩和」の実証実験を実施した
実証実験で使われたアプリ
成果の分析はこれからだが、同社ビジネスソリューション企画部 グループコーディネーション課の工藤 亮氏によれば、実証実験に参加したサポーターからは、概ねポジティブな評価が得られているという。
この実証実験は、神戸市が公募した研究活動費助成プロジェクト「大学発アーバンイノベーション神戸」にも採択されている。楽天モバイルと神戸大学の取り組みに、人流計測・予測、アプリ開発に取り組んでいるデンソーテンにも技術パートナーとして加わってもらい、3者での座組が実現した。
楽天モバイルパートナープログラムでは、楽天モバイルとパートナー、楽天グループ内の様々なアセットだけでなく、このようにパートナー同士がつながることによるシナジーも生まれている。
実際に「デンソーテンさんに参画いただいて以降、プロジェクトのスピード感がより増してきた」と工藤氏。データは今後、神戸大学にて解析されるが、混雑緩和のための実証実験としては規模も大きく、学術的な観点からも注目を集めそうだ。
楽天モバイル ビジネスソリューション企画部 グループコーディネーション課の工藤 亮氏
楽天モバイルでは今回の実証実験を踏まえ、すでに主要観客席が5Gエリア化されているプロ野球・東北楽天ゴールデンイーグルスの本拠地「楽天生命パーク宮城」への横展開や、3Dデータ&VPS技術のさらなる活用にも取り組んでいく考えだという。新たに得られた知見やノウハウを進行中の他のプロジェクトや、今後パートナーとなる企業や団体との新しい取り組みにも生かしていきたいと益子氏は話す。
「楽天モバイルはまだ若い企業であり、改善に取り組んでいる点も多々あるが、一方で若い企業ならではのスピード感や柔軟性がある。パートナーの皆さんと一緒に、新しい未来を作っていきたい」(益子氏)
5Gネットワークはまだ発展途中のインフラだ。モバイルキャリアとして最後発ゆえに、完全仮想化ネットワークのような新たな道を切り開くことができた楽天モバイルは、この黎明期をパートナーとともにどう開拓していくのか。楽天モバイルパートナープログラムの今後の展開が楽しみだ。
※大規模商用ネットワークとして(2019年10月1日時点)/ ステラアソシエ調べ
からの記事と詳細 ( 楽天モバイル流の“5G共創プログラム”が一味違う理由--スタジアムや経済圏を生かした実証実験で目指すもの - CNET Japan )
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