女子テニスの大坂なおみが、記者会見について感じる不安を理由に全仏オープン棄権を決めたことで、スポーツ選手の心の健康の問題に対する意識が高まっている。
選手に義務付けられている試合後の記者会見を巡る大坂と大会主催者側との対立が、このところニュースで大きく取り上げられている。同時に、自身が抱える困難についての大坂の率直な説明は、トップアスリートについてほとんど議論されることのない問題に光を当てた。世界ランク 2位の大坂(23)はツイッターで、長期の抑うつ状態(long bouts of depression)に苦しんできたことを打ち明けた。
国際オリンピック委員会(IOC)などが引用した研究での推計によると、スポーツ選手の3分の1がある時点で、うつ状態や不安、摂食障害、燃え尽き症候群として現れる精神衛生上の危機に直面する。精神の健康は主要7カ国(G7)の中で米国に次いで 自殺率が高い日本でも重大な 社会問題であり、スポーツ界における心の健康問題への意識を高める動きも見られる。
メルボルン大学センター・フォー・ユース・メンタルヘルスの ローズマリー・パーセル教授は「アスリートの精神的健康は身体の健康と同じくらい重要だ」と話す。
同教授によると、過去10年間でこの問題についての研究は「爆発的に増えた」。選手たちには身体的な能力に見合った精神力があると一般的には思われがちだが、それは必ずしも真実ではないと同教授は指摘。特にトップクラスのプロは通常の社会生活を送れない場合が多い一方で、周囲の厳しい視線やプレッシャーにさらされている。
IOCは2019年、米競泳選手のマイケル・フェルプスが12年のロンドン五輪で金メダルを獲得した後にうつに陥ったと公に明らかにしたことなどを挙げて問題提起し、メンタルヘルス障害のリスクがあるアスリートを特定しやすくするワーキンググループを設立した。今年の東京五輪と来年の北京での冬季五輪に向け、IOCは選手を支えるため80余りの言語での ヘルプラインを開設。新型コロナウイルス禍により、選手たちの状況はさらに厳しくなっている可能性があるとIOCはみている。
シドニー、アテネ、北京五輪に出場した元陸上選手の為末大氏は、日本はスポーツ選手に不合理に高く厳格な基準を課す傾向があると指摘する。髪型から私生活まで、アマチュアもプロも一定の行動を求められ、ストレスや精神的負担が増しているという。
同氏は「アスリートは社会の中で弱音を吐けないロールモデルになっている」とし、 「こうあってほしいという像が特に日本は強い」と語った。
また大坂については、「質問の幅がテニスを超えたジェンダーとか、BLM(ブラック・ライブズ・マター、人種差別抗議運動)」などに及ぶとして、「そのストレスはあると思う」と述べた。
企業、特に自社製品を宣伝するためにアスリートに大金を投じるスポンサーも、メンタルヘルスの問題に光を当て支援するためにもっと多くのことができるとパーセル教授は言う。昨年推計で5500万ドル(約60億2000万円)以上を稼いだとされる大坂のようなトップレベルのアスリートにとっては、スポンサー契約も大きな負担になる可能性がある。
「これらのスポンサーや企業の中から、選手に同調してこうしたメッセージを強調するところが出るのが望ましい」とパーセル氏は語った。
国立精神・神経医療研究センターの研究員、 小塩靖崇氏は、プロの選手は友人や家族ではない「利害関係者に囲まれている」ことが多いと説明。いつもの自分を知っている身近な存在が大事で、そうした「利害関係のない人がいつも近くにいることができるとアスリートは救われる」と話した。
大坂の行動については「マイケル・フェルプス氏の時と同じ、またはもっと大きなムーブメントが起こると思うし、ポジティブにしていかなければいけない」と語った。
小塩氏は日本ラグビーフットボール選手会と協力し、アスリートのメンタルヘルスについて社会と対話を促す試み「 よわいはつよいプロジェクト」に取り組んでいる。
原題:
Naomi Osaka Exposes Sports’ Mental-Health Risks With Paris Exit(抜粋)
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