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Thursday, February 4, 2021

『鬼滅の刃』鬼だけでない、鬼滅隊存亡の危機とは - JBpress

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歴史家が考える鬼滅の刃②鬼殺隊の創設と改革に関する仮説(後)

写真:西村尚己/アフロ

(乃至 政彦:歴史家)

乃至政彦『謙信越山』

丁寧な考察と鋭い視点で話題を読んだ連載をまとめた書籍『謙信越山』を発売する歴史家、乃至政彦氏による大人気漫画『鬼滅の刃』を考察するシリーズ第2弾。

 本稿では、『鬼滅の刃』に登場する「鬼殺隊」という鬼狩り組織が、いつ成立したかを見ていこう。※記事中『鬼滅の刃』のネタバレを一部に含みます。ご注意ください

◉歴史家が考える鬼滅の刃①『善逸伝』の一考察(前編)
◉歴史家が考える鬼滅の刃①『善逸伝』の一考察(後編)

歴史家が考える鬼滅の刃②鬼殺隊の創設と改革に関する仮説(前)

鬼殺隊の活動規模について

前編の続き)作中の鬼殺隊は、隊士数「数百名」という大きな組織である。その運用にはかなりの資金が必要だ。総資産の具体的金額を探ることはできないが、その経済力がどれほどの規模にあったか想像することはできる。

 まず隊士の給料である。一番下の「癸」階級は、毎月「現在の二十万円くらい」を、そして「柱は無限に欲しいだけ」の資金を支給されていた(『見聞録』)。仮に数百名を300名ほど、さらに柱が一人で一隊士の10倍以上の資金を使っていると試算(例えば新撰組局長の給料は平隊士の10倍であった)すると、隊全体で毎月8000万円ほどの支出があったと想定できる。年間で10億円近くになるだろう。

 しかもこれらは普通の営利団体と異なり、いくら投資しても収益増加に繋がらない、純然たる支出である。

 そのほか、隊士には、日輪刀と特殊な隊服、日本語を解する鎹鴉(かすがいからす)が与えられる。これらの費用も莫大だろう。さらに隊士の登用試験場「藤襲山」、予備の「空里」が複数あるという日輪刀の生産地「刀鍛冶の里」(第128話)、修行場としての山々と言った施設の管理維持費、蝶屋敷における「看護婦」たち(『見聞録』、第143話)の人件費に、不足な様子もない。作中で示された運用だけ見ても、鬼殺隊の年間支出は、現代の金額で数十億から数百億円を下らないのではないか。

 なお、鬼殺隊の指導者である産屋敷一族は「未来を見通す力」が強く、「財を成し幾度もの危機を回避してきた」(第139話)。すると、その資産はかなり潤沢であるに違いない。飛び地ながら、その私有地も広大そうである。

 これで日本政府当局がその存在に気づかないことがあるだろうか。例えば、先に述べた「藤襲山」の運用(第6〜8話)は看過できないはずだ。この地は少なくとも半世紀近く鬼殺隊の監視下にあり、危険な鬼たちが棲まわされている。しかも山の麓から中腹にかけて藤の花が一年中「狂い咲いている」。これで人目を引かないわけがない。このような特徴的な山が、江戸時代後期に流行した「地誌」に掲載されていないのは、この山が幕末まで開発されていなかったことを物語る。さらに明治以後の日本地図や自治体史に記録されていないのは、国家が秘匿に協力していたからだと考えられる。

 そして刀鍛冶の里は、温泉地にある。元水柱の鱗滝は、狭霧山に罠を張り巡らせている。蝶屋敷にも伊之助が暴れて回れる大きな裏山がある(アニメ24話)。その他、柱たちはそれぞれ大きな邸宅、道場、稽古場、一般人が立ち入らない大きな山地などを所有している。どれも資産価値の高そうな土地である。

 鬼滅世界の政府がよほど無能でない限り、その勢力と活動にノーマークであるはずがない。

 産屋敷家の当主である「お館様」には、殺人罪で処刑が決まった若者を無罪とさせ、剣士に登用するほどの社会的交渉能力がある(第135話)。そのお館様が、政府の要人を藤襲山へ案内し、鬼の存在を実見させれば、それがどんなわからず屋であろうとも、鬼殺隊の必要性を認めざるを得なくなろう。事情を理解した要人たちに政治的要求を呑ませるときは、“1/fの揺らぎ”による発声が効果的であることも想像にかたくない。

 こうして数世代前の「お館様」が新政府の当局に働きかけ、組織の存在を世界と国民に秘匿に協力させたとすれば、鬼滅世界の背景も見えやすくなってくる。

 続いて廃刀令である。

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