米大統領選の投開票日を前に、多くの記事の中で言及されている「隠れトランプ」。「隠れトランプ」がトランプ氏を再選に導く可能性も指摘されているが、それはさておき、この「隠れトランプ」、実は日本の中にもたくさんいるのではないか?
自民党や経済界、官僚、自民党支持者、保守系メディアはもとより、国民の中にも「隠れトランプ」が数多くいるのではないか。
様々な世論調査結果を見て、そんな思いに至った。
アジア系米人は54%がバイデン支持
まず初めに、アメリカに住むアジア系の有権者に対して行れた世論調査の結果から紹介したい。
アジア系アメリカ人の人口統計や政策を研究しているAAPI Dataが、インド系アメリカ人、中国系アメリカ人、フィリピン系アメリカ人、日系アメリカ人、韓国系アメリカ人、ベトナム系アメリカ人など1,569人のアジア系アメリカ人有権者に対して、今回の大統領選に関して行なった世論調査だ。
ところで、アメリカにはアジア系アメリカ人の有権者が1,100万人以上もいる。
ピュー・リサーチによると、この20年間でその数は130%も増加、マイノリティーの中では最も増加しており、アメリカでは無視できない存在だ。ちなみに、白人有権者数は過去20年間で7%しか増加していない。このあたりにも、白人至上主義者がトランプ氏を強く支持する理由があるのだろう。
増加しているアジア系アメリカ人だが、彼らはどちらの大統領候補を支持しているのか?
マイノリティーだから、その多くがバイデン候補を支持している。そう考える人が多いのではないかと思う。実際、この世論調査の結果を見ても、54%の人々がバイデン氏を支持し、30%の人々がトランプ氏を支持している。
バイデンを支持しないアジア系米人とは?
しかし、アジア系アメリカ人の先祖の国別の結果を見てみると、実はそうではない国、つまり、トランプ氏の方を支持しているアジア系アメリカ人がいることがわかった。それは、ベトナム系アメリカ人だ。48%がトランプ氏に、36%がバイデン氏にそれぞれ投票すると答えている。比較までに、日系アメリカ人の場合、61%がバイデン氏に、24%がトランプ氏に投票すると回答した。
ベトナム系アメリカ人は、2016年の大統領選ではトランプ氏よりヒラリー・クリントン氏に投票した人々の割合がはるかに高かったのだが、この4年間で、保守派へと転じてしまった。
なぜか?
背景には、歴史的に“反中”だったベトナム人の心を、あからさまに中国批判をするトランプ氏が掴んでしまったことがあるようだ。
ベトナムには、1800年代終わりにフランスに占領される前、何千年にもわたって中国に支配されていたという歴史がある。1979年には、中国軍がベトナム北部の国境地帯に侵攻する中越戦争も起きた。昨年は、中国の海洋調査船が南シナ海のベトナムの排他的経済水域(EEZ)内で活動し、ベトナム政府は中国側に退去要求を出した。
「中国の支配下にあったため、“反中”であることがベトナム人のアイデンティティーになっているところがある。その歴史が、国境での中国とのコンフリクトや漁業権問題へと続いている。そして今、強い指導者が立ち上がらなければ、ベトナムは中国に飲み込まれてしまうのではないかと多くの人々が恐れている」
とプログレッシブ・ベトナミーズ・アメリカン・オーガニゼーションの選挙戦略家ティ・ブイ氏はNBCニュースで話している。
そんな中、ベトナム系アメリカ人に評価されているのが、中国に対して強硬姿勢をとるトランプ氏だ。彼らは、中国から飲み込まれようとしている自国を救ってくれる救世主が現れたと感じているのかもしれない。そのことが、トランプ氏支持に繋がっていると思われる。
中国に乗っ取られる
しかし、同様に感じている日本人もまた多いのではないか。日本が中国に乗っ取られるのではないか。ネット上にはそんな危機感を感じている日本人の投稿が多数ある。
「尖閣は、絶対死守しなければならない。そうしなければ、次は沖縄・台湾に矛先が向けられる」
「中国の覇権を許してはならない」
「尖閣諸島が中国の物になるのも近い。日本も核武装すべきだ」
実際、世論調査もその声を反映している。言論NPOが行った調査によると、日本人の中国や日中関係への印象は悪いままでなかなか改善しておらず、84.7%と未だに8割を超える日本人が中国にマイナスの印象を抱いている。
また、57.8%の日本人が中国に対して軍事的脅威を感じていると回答している。「日中間で軍事紛争は起きるか」という質問に対して、“数年以内に起こると思う”と回答した人と“将来的には起こると思う”と回答した人々は合わせて60.1%もいる。
トランプ氏を評価していない日本人
つまり、中国に脅威を抱いている日本人は多いのだ。そうならば、中国に対して強硬姿勢をとるトランプ氏を救世主のように考えて評価しているかというと、そうではない。
NHKの世論調査によると、トランプ氏は第2次世界大戦後の歴代大統領の中でも評価されておらず、トランプ氏のことを評価する人々は2%に留まった。比較までに、オバマ大統領は54%、ケネディ大統領が17%、レーガン大統領が11%と高評価されている。
また、今年の大統領選挙でトランプ大統領が再び当選した場合の日本への影響を尋ねたところ、10%の人々しか「良い影響が大きい」と回答しておらず、「悪い影響が大きい」と回答した人々の方が57%とはるかに多かった。
大統領選挙に関してギャラップと読売新聞が2019年11月に行った世論調査でも、日本人の76%が「トランプ大統領が2020年に再選されることは望ましくない」と回答している。
要するに、日本人の多くは、中国に対して、前述のベトナム系アメリカ人のように脅威を感じているにもかかわらず、中国に強硬姿勢をとるトランプ氏のことを評価しておらず、むしろ日本に悪影響を与えるため、再選してほしくないと思っているのである。
この矛盾をどう考えるべきか?
トランプTシャツは外では着れない
結局のところ、トランプ氏に関する世論調査には、日本人の本音が反映されていないということではないだろうか。日本にも、アメリカ同様、トランプ氏を評価している、再選してほしいと声を大にしては言えない、ある種のピア・プレッシャー(同調圧力)や空気感があるのではないか。トランプ氏を評価していると表明するのは恥ずかしい、周囲の人から非難されるかもしれない。そんな恐れを抱いている人が数多くいるのではないだろうか?
私事だが、筆者は、トランプ氏のTシャツがほしいという日本の友人のために、しぶしぶ、トランプTシャツを買い、帰国時に渡したことがある。しかし、その友人はトランプTシャツを家の中でしか着ていない。友人は言う。
「白い目で見られそうで、外ではとても着ることができない」
様々な世論調査結果は、日本にもたくさんの「隠れトランプ」がいることを示唆しているようでならない。
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